高齢者の2型糖尿病患者におけるサルコペニアの歩行特徴を解明
背景と目的
近年、世界的な高齢化が進む中で、2型糖尿病の患者数が増加しており、それに伴いサルコペニアという症状の発生も懸念されています。サルコペニアは、骨格筋の量や筋力が減少し、身体機能が低下する症状であり、加齢だけでなく栄養不足やさまざまな疾患によって引き起こされることが知られています。特に、2型糖尿病は筋肉の代謝に悪影響を及ぼしやすく、サルコペニアのリスク要因となります。そこで、国立研究開発法人産業技術総合研究所の研究チームは、高齢の2型糖尿病患者におけるサルコペニアの早期発見に繋がる歩行の特徴を解明することを目指しました。
研究の手法
本研究では、香川大学医学部附属病院との共同研究が行われ、歩行解析には3次元の動作解析装置が使用されました。対象となったのは、65歳以上の高齢2型糖尿病患者38名です。研究者たちは、患者が約15mの直線を徒歩で往復する様子を観察し、身体の位置座標を計測しました。この時、得られたデータをもとに歩行中の関節の運動範囲などを詳細に分析しました。
主要な発見
研究の結果、サルコペニアを有する糖尿病患者は、サルコペニアを持たない患者よりも、歩行速度や歩幅の減少だけでなく、足関節の運動範囲が大きく制限されることが判明しました。特に重要なのは、歩行速度の影響を排除した状態でも足関節の運動範囲の減少が認められたことで、これはサルコペニアを示す新たな指標になる可能性があります。この結果は、糖尿病患者の身体機能の低下を定量的に評価する手法として、サルコペニアの早期発見に役立つことが期待されます。
社会的意義
現在、世界では2050年に2型糖尿病患者が約12億7千万人に達すると予測されています。糖尿病とサルコペニアの関係は非常に密接であり、糖尿病の進行がサルコペニアを促進することが多いです。そのため、早期発見と介入が求められています。これまでサルコペニアの診断には多くの時間とコストがかかるため、より簡便で実用的な評価法の開発が急務でした。
今後の展望と研究の方向性
今後の研究では、患者から得られたデータをもとに、スマートフォンなど普及したデバイスで歩行や関節の動きを評価できるシステムの構築が進められます。このシステムによって、専門的な設備がなくても自宅や医療機関での早期発見が可能になることが期待されており、サルコペニアの進行を抑制し、患者のQOLを向上させる手助けとなります。同研究の詳細は、2025年5月に「Scientific Reports」に掲載される予定です。