頭蓋咽頭腫の新たな治療法開発に向けた光明:細胞レベルでの解明
脳下垂体領域に発生する稀な腫瘍、頭蓋咽頭腫。その治療法開発に大きく貢献する可能性を秘めた画期的な研究成果が、千葉大学医学部附属病院の松田達磨医師らの研究グループから発表されました。
本研究では、最新の遺伝子解析技術である単一細胞RNA解析を用いることで、頭蓋咽頭腫の2つの主要なサブタイプ、エナメル上皮腫型(ACP)と扁平上皮乳頭型(PCP)の細胞レベルでの詳細なメカニズムが解明されました。
研究のポイント
世界初の細胞アトラス作成: ACPとPCPそれぞれの腫瘍を構成する細胞の種類、分布を詳細に示した包括的な細胞地図(アトラス)が作成されました。これにより、この稀少腫瘍の全体像が明らかになりました。
腫瘍細胞の新たな分類: 遺伝子発現パターンに基づいた腫瘍細胞の新しい分類法が確立されました。それぞれのサブタイプの特徴的な分子メカニズムの解明は、各タイプに応じた効果的な治療法開発への重要な手がかりとなります。
免疫細胞と臨床症状の関連性発見: 腫瘍に存在する免疫細胞(腫瘍関連マクロファージ)の種類と比率が、患者の症状と密接に関連していることが判明しました。この発見は、症状の予測や治療方針の決定に役立つ可能性があります。
腫瘍微小環境の解明: 腫瘍細胞と免疫細胞の相互作用メカニズムが明らかにされました。この知見は、腫瘍の進展メカニズムの理解を深め、新たな治療標的の発見につながることが期待されます。
難治性の頭蓋咽頭腫
頭蓋咽頭腫は、重要な神経や血管に挟まれて成長するため、手術による完全切除が困難な脳腫瘍として知られています。また、視力障害や内分泌障害などの深刻な合併症を引き起こす可能性も抱えています。年間約700人が診断され、その30~50%が青年期に発症するなど、その治療法開発が急務とされていました。
単一細胞RNA解析の威力を発揮
本研究では、10例の頭蓋咽頭腫患者の検体を用いて単一細胞RNA解析が行われました。この技術により、従来の組織全体を対象とした解析では得られなかった、個々の細胞レベルでの詳細な情報が得られました。これにより、腫瘍の発生・進展に関わる複雑な分子メカニズムの解明に大きく貢献しました。
今後の展望
研究グループは、CD44-SPP1細胞間情報伝達経路やミッドカイン(MDK)を介した細胞間ネットワークに着目し、分子標的薬の開発を目指しています。これらの成果は、頭蓋咽頭腫患者の治療戦略を大きく変える可能性を秘めています。
本研究は、iScience誌に2024年10月1日付で掲載されました。この成果が、頭蓋咽頭腫という難治性の疾患に苦しむ患者さんたちに、新たな希望をもたらすことを期待しています。