就学前児童向け住血吸虫症治療薬の実用化へ向けた新たな一歩
公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)が支援する製品開発プロジェクトが、重要なマイルストーンを迎えました。これまで、2013年から就学前児童を対象に住血吸虫症の治療薬開発を進めてきたGHIT Fundは、小児用プラジカンテル・コンソーシアムおよびメルクと協力し、新たな治療法であるarpraziquantelをウガンダの子どもたちに初めて投与することを発表しました。
このプラジカンテルの新型製剤は、GHIT Fundが資金援助を行う中で開発されてきたもので、まん延国での大規模な導入を目指す「ADOPTプログラム」を通じて実施されます。この成果は、GHIT Fundが設立されて以来、現場で子どもたちに治療薬を提供するための実装研究の枠組みを創出した初めての事例となります。
GHIT FundのCEO、國井修は「これは単なる科学的成果ではなく、グローバルな共同作業によって生まれたイノベーションの証です。さまざまな専門家が集まり、研究から臨床まで10年間の努力が結実しました」と述べています。
住血吸虫症は、主にサハラ以南のアフリカを中心に影響を及ぼし、約5,000万人の就学前児童が罹患していると推定されています。この寄生虫感染症は貧困層の人々に特に厳しく、放置すると貧血や発育不全、学習障害などの健康問題を引き起こします。これまで適切な治療法がなかったため、多くの子どもたちが危険にさらされてきました。
ここで注目されるのは、arpraziquantelが就学前児童にとって初めての効果的な治療選択肢となる点です。公衆衛生の観点から見ても、早期の治療は極めて重要で、子どもたちを深刻な合併症から守ることができます。また、医療制度への長期的な負担を軽減し、生活の質の向上に寄与することも期待されます。
小児用プラジカンテル・コンソーシアムは、この住血吸虫症の克服に向けた取り組みの一端を担い、arpraziquantelを開発しました。アステラス製薬は初期の製剤開発において、特殊な技術を駆使して重要な役割を果たしました。この製剤は、水に溶けやすく、幼い子どもでも飲みやすいように苦みを軽減しています。
メルクはこの製品を最適化し、フィオクルス財団との連携により製造が進められています。将来的にはアフリカ各国での大規模生産が見込まれており、ナイロビにあるユニバーサルコーポレーションと協力する計画も立っています。
GHIT FundのCEO國井はさらに、「arpraziquantelの開発は、日本と海外のイノベーションが交錯した成果です。国際的なパートナーシップの力でグローバルヘルスの課題を解決していくことが、私たちのミッションを具現化するものです」と語ります。
GHIT Fundはこの10年間、arpraziquantelの研究開発を支援しつつ、持続可能なアクセスメカニズムの模索にも取り組んできました。また、共同で実施している「ADOPTプログラム」は、コートジボワール、ウガンダ、ケニアでの導入をサポートし、セネガルやタンザニアにおける地域ニーズへの対応も進めています。
GHIT Fundのアイザック・チクワナは、薬剤普及のためには国レベルでの政策調整が必要で、「各国の経験が他の国の参考になることを期待しています」と述べています。
arpraziquantelは2023年12月に欧州医薬品庁(EMA)からポジティブな評価を受け、2024年5月にはWHOの事前認証リストへの登録が予定されています。さらに、2025年にはWHOの必須医薬品リストへの収載が期待されており、今後の進展が注目されます。
このように、GHIT Fundの取り組みは、就学前児童に対する新たな希望をもたらし、住血吸虫症撲滅の道を切り開く一助となるでしょう。