廃棄血液の有効活用による再生医療の新しい道
近年、再生医療への期待が高まる中、その実用化に向けた切実な課題の一つが「細胞の大量増殖」であります。これに伴い、北海道大学大学院医学研究院の藤村幹教授をはじめとする研究チームが、廃棄される予定の白血球除去フィルターから高品質のヒト血小板溶解物(f-hPL)を製造する方法を確立しました。この新技術は、再生医療の進展に大きな影響を与えることが期待されています。
血小板溶解物とは何か
f-hPLは、間葉系幹細胞(MSC)の増殖に寄与する培養サプリメントです。これまで細胞培養ではウシ胎児血清(FBS)が主に使用されてきましたが、FBSには免疫反応や倫理的な懸念、動物由来の感染症リスクが存在します。そのため、ヒト由来の原料であるf-hPLが注目されていますが、これまで十分な量を確保することが課題とされていました。
研究の背景
研究チームは、血液製剤を製造する過程で使用される白血球除去フィルターを利用し、フィルター内に残存する血小板と血漿成分を回収・加工してf-hPLの製造に成功しました。この方法により、一つのフィルターから約3.5×10^10個の血小板が回収可能となり、また最適なタンパク質濃度(27mg/mL)のf-hPLは、市販のFBSの4倍、商用hPLと同等以上のMSC増殖能を示しました。
研究手法と成果
今回の研究においては、自動細胞培養装置(Quantum)による臨床スケールでの細胞培養に成功し、90%以上の細胞生存率を達成しました。f-hPLは、ISCT(International Society for Cell & Gene Therapy)の基準を満たす表面マーカーを発現し、脂肪、骨、軟骨への分化能を保持しています。
この研究成果は、再生医療での具体的な利用を促進し、特に以下の3つの意義があります。
1.
持続可能な再生医療資源の確保:血液製剤製造の副産物を効果的に利用し、低コストかつ持続可能な細胞治療基盤を構築します。
2.
再生医療製品の実用化の加速:f-hPLは、FBSや商用hPLに比べて高いMSCの増殖能を示し、臨床グレードの細胞製品を高品質かつ効率的に製造できる可能性があります。
3.
医療廃棄物の再資源化とSDGsへの貢献:今回の研究は、医療廃棄物を再生可能資源と位置づけ、持続可能な開発目標(SDGs)にも合致する取り組みです。
未来への期待
今後、研究グループは、GMP(Good Manufacturing Practice)準拠の製造プロセス開発を進め、さらなる大規模な臨床研究への展開を図る予定です。また、多くの学術機関や企業との連携を強化し、f-hPL製品の商業化や国際的な供給体制の構築も視野に入れています。この新たな供給体制は、再生医療の普及と産業化に寄与することが期待されています。
研究の公表と問い合わせ
この研究成果は、2025年4月23日に国際的な専門誌であるStem Cell Research & Therapyに掲載される予定です。研究チームへのお問い合わせは、北海道大学大学院医学研究院や株式会社RAINBOWなど通じて行われています。