日本の木造伝統建築を守るデジタル技術
近年、デジタル技術がさまざまな分野で進化を遂げていますが、特に建築業界においてはその活用が新たな展開を迎えています。最近、株式会社吉匠建築工藝の代表取締役社長である吉川宗太朗氏が発表した論文が、3Dスキャンや点群測量技術を駆使した日本の木造伝統建築の保存方法について注目を集めています。
伝統建築を未来に繋ぐ取り組み
吉川氏は日本の伝統建築の美しさと歴史的価値を未来へ残すために、3Dスキャン技術を活用して建物の詳細なデジタル記録を作成する試みを行っています。彼は、2025年9月22・23日にルーマニアのトランシルヴェニア大学で開催される第17回バルカン地域建築学会にて、共同研究者と共に論文を発表しました。共同研究者には元港区長の原田敬美氏や、宮大工でありT&I 3D株式会社のCEOである上野拓氏が名を連ねています。
25年の歴史を持つデジタル技術
吉川氏がデジタル技術に初めて触れたのは、25年前に母の依頼で3Dソフトを使用した時でした。その際、図面よりも立体として理解することの重要性に気づき、伝統建築の保存技術として3Dスキャンや点群測量技術の導入を志しました。当初、建築業界内では従来の手作業や足での測量が一般的であり、デジタル技術に対する抵抗感もありました。しかし、3Dスキャン技術による視覚的なメリットを示すと、業界内の意識も変わり始めました。
日本の伝統建築を守るデジタル技術の役割
現在、日本の木造伝統建築は自然災害の増加に伴う危機に直面しています。図面が失われていたり、誤差があったりするケースが多く、修復が難しくなることが懸念されています。そこで、近年のデジタル技術の活用は、歴史的建物の現況調査を行い、迅速かつ高品質な図面作成を実現しています。
吉川氏の論文では、デジタル技術を用いて屋根裏や床下の測量を行った事例も紹介されています。これにより、伝統建築の詳細を正確に記録し、未来の修復や再建に役立てることが可能となります。
文化財保護の革新的なアプローチ
吉匠建築工藝の特許技術を用いたデジタルアーカイブ化は、文化財や歴史的建物の現況を迅速かつ正確にデータ化します。従来の手作業による測量に多大な時間を要するのに対し、3Dスキャンを利用した方法では短期間で高精度の図面作成が可能です。この方法は、修復作業の効率化や精度向上に寄与し、将来的な復興を支える基盤ともなります。
海外事例:ノートルダム寺院の復興
論文では、2019年に火災が起きたパリのノートルダム寺院の復興状況も取り上げられています。この事例に見るように、事前に行われた測量によるデータが利用されたことで、再建工事が被災からわずか5年で完了しました。デジタル技術の導入が、伝統建築の復興においても重要な役割を果たすことを示しています。
未来の伝統建築とデジタル技術
吉匠建築工藝は、伝統建築の設計・施工・修理に特化した企業であり、その取り組みは国内外で注目されています。3Dスキャン技術を用いた業務を行う企業は少なく、デジタルデータの取得から設計・積算・プレゼンまで一貫して行うことは希少です。吉川氏は、デジタル技術を用いた伝統建築保存方法の認知を広げ、業界の未来を切り開くための情報発信を続けています。
日本の伝統建築は様々な時代の技術によって築かれてきました。現代のデジタル技術を活用することで、次世代へと美しい建物を残す取り組みが進められています。吉川氏の論文は、こうした新たな試みを国内外に広めていく重要な一歩です。