日本の文学界で名高い芥川龍之介賞。その名が冠されたこの賞の第173回ノミネート作品が発表され、文藝春秋社が発行する文芸雑誌「文學界」の6月号に掲載された2作が選ばれました。ひとつはグレゴリー・ケズナジャットによる『トラジェクトリー』、そしてもうひとつは日比野コレコの『たえまない光の足し算』です。
『トラジェクトリー』の魅力
この作品は、英会話教師としての三年間を過ごすブランドンが主人公です。彼は常にアポロ11号の歴史的な記録に魅了されており、物語は彼の内面を掘り下げつつ、アポロ宇宙計画の壮大さを物語に取り入れています。グレゴリー・ケズナジャットは、2021年の「鴨川ランナー」で京文学賞を受賞して以来、鋭い観察眼と豊かな描写力で読者を魅了し続けています。
彼の作品の特徴は、日常生活の中に潜む非日常を見出す力です。本作でも、宇宙というテーマを通じて人間の感情や成長を豊かに描いています。例えば、ブランドンの成長する姿や彼が抱える葛藤は単なる物語の背景ではなく、読者自身の人生に通じる普遍的なテーマを持っています。
『たえまない光の足し算』の独自性
もう一つの作品、日比野コレコの『たえまない光の足し算』は、美容外科のポスターに衝撃を受けた主人公、薗が「異食の道化師」となる過程を描いています。22歳の若さでデビューした日比野は、すでに多くの注目を集めており、今回のノミネートは彼にとって初めての大きなチャンスです。
この作品は、自分自身を変えたいという欲望と、それによって引き起こされる心理的葛藤を描いています。日比野は人間の内面に迫る深い視点から、現代社会の美と自己愛の問題を鋭く切り取ります。また、薗のキャラクターは、人間関係の中での成長の過程を垣間見せてくれます。
評価と期待
第173回芥川龍之介賞の選考会は今年の7月16日に東京で行われる予定です。ノミネートされた2作品は、それぞれ異なる視点から人間の生き様や心情を描き出しており、多くの読者に響くことが期待されます。この機会に、文筆家たちの熱い想いが詰まった作品を手に取ってみてはいかがでしょうか。
『文學界』の今月号には多くの興味深い記事が掲載されており、文学界の最新情報をキャッチするのにも最適です。様々な読者にとって、新たな発見があることでしょう。