1980年代からの議論が蘇る
2025年12月23日、河出書房新社から新著『集団とは何か:人間が「集まる」意味を人類学から解き明かす』が発売される。著者代表の福井勝義氏を筆頭に、当時の共同研究に参加した18名の学者による貴重な論考が集約されており、社会と個人の相互作用に関する深い考察がなされている。
この書籍は、1983年から1988年にかけて国立民族学博物館で行われた共同研究の成果であり、従来の先入観を覆すような斬新な視点で「集団の編成と統合」というテーマに取り組んでいる。人間がなぜ集団を形成するのか、集団の組織原理は何なのかといった根源的な問いを掘り下げ、個と社会の関係性を深く探求している。
研究の背景
本書は、当初、故・福井勝義氏が主導した研究成果として刊行される予定であったが、2008年に同氏が亡くなったことで、長らくお蔵入りとなっていた。しかし、現代においても重要なテーマである集団の編成とその原則を議論する本書は、時代を超えた価値を持ちながら人間社会の本質に迫るものとなっている。
著者陣には、京都大学や東京大学、国立民族学博物館などの名だたる研究者が名を連ね、その多様な視点が交差することで、集団に関する新たな理解をもたらすことが期待されている。彼らの研究が深化することにより、集団の形成、維持、そして解体のメカニズムが明らかになるだろう。
現代への問いかけ
本書が特に注目されるのは、単なる過去の研究成果にとどまらず、今もなお人間社会における集団の意味を問いかけている点だ。気候変動や国際的な対立が増している現代、どのように集団を構築し、維持し、また時には解体するのかといった課題は、より一層私たちに迫ってくる。集団の原理に関する新しい知見が、現代社会の複雑な問題解決につながる可能性も秘めている。
書籍の内容
本書は全512ページにわたり、序文を山極壽一氏が執筆し、以下のような章立てで構成されている。
1.
集団とは何か
- なぜ群れたがるのか(日高敏隆)
- 霊長類の社会における「集団」(北村光二)
- 集団以前──対面集合と遊戯形式(関本照夫)
2.
個から個体関係へ
- 社会人類学における「個人」の問題(大塚和夫)
- 霊長類と人間の対他身体論に向けて(菅原和孝)
- 社会過程としてのコートシップ(谷 泰)
3.
集団維持の基本原理
- ゴリラの世代とコミュニティの構造(山極壽一)
- 性的関係を媒体とする集団の統合(田中二郎)
- ムブティピグミーのバンド構成(丹野 正)
4.
集団の分節と統合
- 哺乳類社会の集団間関係(大澤秀行)
- 家畜ヤギ群の成立機構(鹿野一厚)
5.
集団の合理性
- 年齢体系の構造(佐藤 俊)
- 集団と性別原理(中山和芳)
- 血縁淘汰説から考える(伊藤嘉昭)
このように、本書では人間と社会、生物学的特性を交えながら集団の形成にまつわるさまざまな視点が展開されている。図表も豊富で、研究の成果を視覚的に理解できる工夫がなされている。
おわりに
『集団とは何か』は、個と社会の関係の探求において重要な一冊となることでしょう。集団の理解を深めることで、私たちの社会を今後どう形成していくのか、その指針を示してくれることに期待しています。人類学からの新たな視点が、現代社会における集団の在り方を再考するきっかけとなることを願っています。