小学館の国語辞典『大辞泉』が2024年の新語大賞を発表し、選ばれたのは「ホワイト案件」という言葉でした。この言葉は、もともとは犯罪とは無関係の仕事を指す言葉ですが、最近ではSNSなどを通じて強盗などの違法な仕事が「ホワイト案件」として募集される事例が多発し、これは大きな社会問題となっています。
この新語は、危険な仕事を安全な仕事のように見せかける手法を示唆しており、明治大学の田中牧郎教授は「ホワイト案件」は「闇バイト」の対極にあるようで、その実態は同義語であるとも指摘しています。著名な事件などの報道によれば、凶悪な犯罪が頻発している中で、末端にいる実行犯が「ホワイト案件」として募集され、知らず知らずに巻き込まれ、さらには脅迫されて活動する被害者的な側面も持ち合わせているというのです。
また、今年の新語大賞では「闇バイト」が次点に選ばれたことからも、この問題の深刻さが伺えます。“闇バイト”と呼ばれる雇用形態は、一般的には犯罪行為を伴うものであるため、社会の中で厳しい目で見られています。ですが、近年ではその雇用される側が様々な事情から、このような危険な仕事に手を染めざるを得ない状況にあります。これらの問題を引き起こすキーワードには、「匿名・流動型犯罪」といった新語や略称「トクリュウ」が多く寄せられました。
他にも2023年の新語として「フキハラ」と「静かな退職」が次点になりました。「フキハラ」とは、「不機嫌ハラスメント」を略した言葉で、他者に対して怒りを示さないが、不機嫌な態度を取ることから、相手にストレスを与える行為を指します。具体的には、ため息や舌打ち、無視といった表現が含まれます。このような行為は、直接的には攻撃的ではないため、やられた側が反論できず、精神的な負担を強いる場合が多く、じわじわとストレスが蓄積する恐れがあります。
「静かな退職」は、企業に在籍しつつも最小限の仕事だけをする働き方を指します。このような働き方を選ぶ理由としては、やりがいを求めるよりもプライベートを重視したい、出世が見込めないことを悟った、そして仕事に対するモチベーションが低下していることが含まれます。この現象は、2022年にアメリカで提唱された「quiet quitting」が日本に浸透した結果とも言われています。
さらに、応募数が最も多い投稿を見てみると「50-50」というフレーズが大谷翔平選手の偉業に由来するもので、転じて困難なミッションを達成する意味で使われています。このように新語は日々変化し、我々の言語生活を豊かにする一方で、社会問題を反映した言葉も少なくありません。
最終的には今回の新語大賞キャンペーンには2,731本の投稿が寄せられ、選考は『大辞泉』編集部と田中教授によって行われました。ここで紹介した言葉は、今後『大辞泉』の中に追加される可能性があるとのことです。皆さんもこれからの言葉の使い方について考えてみる機会になるのではないでしょうか。