現在、2025年に向けて開催が予定されている大阪・関西万博。かつて1970年に開催された大阪万博を批判した前衛芸術家、加藤好弘の思想を掘り下げた新書『反万博の思想 加藤好弘著作集』が、5月27日に発売されることが発表されました。本書は、加藤好弘とその芸術集団〈ゼロ次元〉の活動を徹底的に分析し、その思想や肉体を主なメディアとした表現について考察した内容です。
加藤好弘は1936年、名古屋に生まれ、多摩美術大学を卒業後、1960年代に前衛芸術集団「ゼロ次元」を結成しました。彼らは「はいつくばり行進」や「狂気的ナンセンス展」などを通じて、人々の予想を超えるような体験を提供しました。その中でも、1969年の「万博破壊共闘派」結成は特に注目される活動です。大阪万博の影響を受け、彼はこのメガイベントへの強い批判を表明し、その後も様々な形で反体制的なパフォーマンスを展開しました。
本書には加藤が残したエッセイや対談、さらには貴重な写真やポスターが収録されており、彼の思想がどのようなものであったかを理解する手がかりとなる内容が満載です。特に「万博破壊活動第三宣言」や「意識革命序論」といった章では、彼自身の思想と行動がいかにして形成されていったのかが描かれています。「文明の墓場」と表現される万博を対象にした加藤の言葉は、今もなお多くの人々に考えるきっかけを与えています。
また、1960年代は日本の現代美術が多様な表現によって変化を遂げた時代でもあり、この時期に登場した前衛芸術家は、その後のアートシーンに多くの影響を与えました。特に「ゼロ次元」と彼らのパフォーマンスは、アンダーグラウンド文化やカウンターカルチャーにおいて重要な役割を果たしました。彼らの活動はただの芸術表現にとどまらず、社会に対する強いメッセージを発信するものでした。
本書の編者である細谷修平氏は、加藤好弘の思想について「彼は身体を通して言葉を奏でた演者であり、その作品は社会への抗議でありました」とコメントしています。また、加藤が残した言葉や活動は、現代のアートシーンでますます重要視されるようになっています。特に、グローバリズムに対抗する思想として、彼のアプローチが評価されることが多くなってきているのです。
このような背景の中で『反万博の思想』は、加藤好弘とゼロ次元の活動を炙り出す重要な資料となります。戦後の日本美術を振り返る上で欠かせない一冊として、今後ますます注目を集めることでしょう。加藤好弘の独自の視点や、彼の活動によってどのように美術が変わっていったのかを知る絶好の機会です。現在の文化的な議論やアートにおける表現の自由について考える上でも、この本は新たな視点を提供してくれることでしょう。
『反万博の思想 加藤好弘著作集』の出版を通じて、加藤好弘が試みたアートの力やその社会的意義を再評価し、彼の活動が今の時代にもどのように響いているかを考えていく必要があります。来る大阪・関西万博への期待や批判、さらには現代のアートシーンに対する考察を深めるための良いきっかけとなることを期待しています。