革新的電子材料開発を加速する新しいデータベースの誕生
村田製作所と物質・材料研究機構(NIMS)による共同研究が、新たに約2万種の誘電材料を含むデータベースの構築に成功しました。このデータベースは、既存の5000以上の科研文献を基にしたものであり、次世代の電子材料開発の可能性を大いに広げています。この成果は、権威ある科学雑誌「Science and Technology of Advanced Materials: Methods」に発表されました。
データベースの背景と目的
現代の材料開発において、AIとデータ科学は不可欠な役割を果たしていますが、正確なデータが不足していることが大きな妨げとなっていました。特に、材料の誘電的性質は温度によって大きく変化するため、その特性を把握しやすくすることが求められています。しかし、伝統的には実験データがグラフ形式で提示されることが多く、そこから数値を読み取るのは難しいとされていました。
このような課題を解決するために、NIMSの研究者らは「Starrydata」というウェブシステムを活用し、情報を厳選しながら温度依存性データを収集しました。研究チームは、人の手でグラフから数値を抽出するプロセスを経て、誤記の訂正を行い、質の高いデータセットを作成しました。
機械学習モデルの構築
新たに構築されたデータベースは過去最大のものとなり、電子機器に必須の誘電材料に特化した内容で設計されています。このデータベースを用いることで、研究チームは機械学習(ML)モデルを導入し、材料の電気的特性を高精度で予測することに成功しました。
しかし、MLモデルはその予測が「ブラックボックス」となり、内情の理解が難しいという一面もあります。そのため、研究チームはデータの視覚的マップを作成し、関連性やパターンを分かりやすく示しました。特に、材料の組成が特性に与える影響を理解するための分析が行われました。
誘電材料の分析と分類
研究チームは、材料を七つの重要な強誘電体ファミリーを含む九つのグループに分類し、材料特性の「空間」を視覚化したマップを作成しました。これにより、日常的な電子機器やエネルギー貯蔵技術にとって重要なペロブスカイト酸化物(組成ABO3)材料群の特性も明らかになりました。データの可視化の結果、材料の基本構造と誘電率との間に有意な関連性が示され、過去の材料科学者の知見とも一致する結果が得られました。
未来への展望
この研究は、データ科学による誘電材料の理解を深化させ、伝統的な試行錯誤から脱却する可能性を秘めています。NIMSの研究チームは、構築したデータベースを来年には公開し、世界中の研究者が自由に利用できるようにする予定です。また、将来的には製造方法や加工条件に関するデータ収集も拡大し、生産プロセスと材料特性を結びつけることで、より包括的な予測を実現する青写真が描かれています。
村田製作所のチームは、「今回の基礎的な研究が新材料の発見と開発に寄与し、データ科学と人の知恵を融合することが期待されています。」と述べています。今後、この研究成果がエレクトロニクス分野及び社会全体において、さらなる貢献を果たすことが期待されます。
論文情報
- - タイトル: Data-driven analysis and visualization of dielectric properties curated from scientific literature
- - 著者: Tomoki Murata, Naoto Saito, Eiji Koyama, Ton Nu Thanh Phuong, Ryusuke Misawa, Satoshi Yokomizo, Tomoya Mato, Yu Takada, Sakyo Hirose & Yukari Katsura
- - 所属: 村田製作所、NIMS
- - 引用: Science and Technology of Advanced Materials: Methods Vol. 5 (2025) 2485018
- - 公開日: 2025年4月22日
本研究は、国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)とEmpaが支援するオープンアクセスジャーナルに掲載されています。