戦時中の地理教育が小学生に与えた影響とは

戦時中の日本では、小学生も地理の授業で「地政学」という重要な概念を学んでいました。特に注目されるのが、昭和十八年から終戦まで使用された『初等科地理』という教科書です。この教科書は、小学五、六年生向けに編集され、地政学の基礎を分かりやすく植え付けようとしていました。

教材としての工夫

『初等科地理』は、地理の学習内容が市場の産業地図の概観から始まり、さらに歴史的な背景を加えながら理解を深めていく構成となっています。特に、源頼朝が選んだ土地の地政学的重要性が記載されていた点は注目です。このような教育によって、戦略的な視点を持たせる意図が巧みに組み込まれていたのです。

また、河川や道路、鉄道、発電所など、国家防衛に関わる重要ポイントを自然に盛り込むことで、生徒たちは日常の地理の中に戦略的思考を連想させることに成功していました。このような内容は、戦後の教科書では見受けられず、当時の教育がどれほど異質なものであったかを物語っています。

現代との違い

戦後の地理教科書では「国防上非常に大切なところ」という表現を見かけることはありません。文部省の教科書検定が厳しさを増す中、当時のような直接的な表現はむしろ不適切として却下される可能性があります。そうした点からも、一体どのようにしてこの教科書が教育現場に位置づけられていたか、その真意を知るのは難しいことです。

外地篇に見る価値観

さらに、教科書の外地篇では西洋列強による植民地支配の恐ろしさと、それに立ち向かう日本の勇敢さが描かれることで、当時の若者に国際的な責任感を芽生えさせようとしていました。このように、戦時中の教科書が戦略的資源分布を明示したことに驚かざるを得ません。筆者自身も、これらの地域を取材する中で、逆にその理解が教科書の記述から得られたことが多くありました。

まとめ

『初等科地理』を2回読み返すうちに、当時の小学生たちがどれほど深いレベルの教育を受けていたかに感銘を受けました。地理学をただの学問としてではなく、国の防衛や国際的な視野に結びつけて教える姿勢は、現在の教育にも通じるものがあるのではないでしょうか。本書の復刻版が青年たちに再び注目されることを願います。この貴重な教科書には、戦争の時代がいかに教育に影響を与えたかを考える手がかりが詰まっています。