五十嵐大『エフィラは泳ぎ出せない』の魅力
2023年7月29日、注目の著者五十嵐大による小説『エフィラは泳ぎ出せない』が創元推理文庫から刊行されました。この作品は、エッセイ『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の成功を受けての小説家デビュー作であり、国内外の読者から期待が寄せられています。
物語の概要
物語の主人公は、東京でフリーライターとして働く小野寺衛(まもる)。彼は突然の電話で兄の聡(さとし)が亡くなったことを知らされ、故郷の宮城県松島へ帰ることになります。兄は知的障害を持っており、その死因は自殺とされました。衛は、故郷を離れてから7年間帰っていない実家で聡の遺体と向き合い、兄の死の真相を探ろうとします。
衛が実家に戻った時、彼はそれまでの7年間過ごしていた喧騒な東京の生活とのギャップに戸惑いを覚えます。特に聡の死という衝撃的な出来事が、彼の心にどのような影響を与えるのか。兄との関係や家族の絆、この物語を通じて描かれるテーマは、読む者の心を打ちます。
驚愕の真実
衛が親族や幼馴染と話を進める中で、周囲の人々が知る聡の姿や彼が背負っていたものが徐々に明らかになっていきます。聡の死には表には出てこないさまざまな事情や感情が絡み合っていたのです。衛が知った衝撃の真実は、読者にとっても驚くべきものであり、思わずページをめくり続けたくなるでしょう。
障害者問題への鋭い視点
この作品では、知的障害者に対する社会的偏見や、家族の在り方についても深く掘り下げられています。衛の視点を通して、障害のある兄に対する無意識の差別や、親密な関係の複雑さが語られていく様子は、特に現代社会で考えるべき重要なテーマを浮き彫りにしています。五十嵐はその筆致で、社会に対する“怒り”や“悲しみ”を表現しており、感情豊かに描写されています。
読者へのメッセージ
最終的に、衛と家族がどのような決意を固めるのか。全ての真実を知った後に彼らが取る行動は、感動的であり、考えさせられるものがあります。五十嵐大の『エフィラは泳ぎ出せない』は、単なるミステリ小説ではなく、家族の絆や人間関係の複雑さを描く作品として、多くの人に読まれることを願っています。
この『エフィラは泳ぎ出せない』は404ページのボリュームもあり、内容が詰まった一冊です。ぜひ多くの人に手に取っていただき、多様な視点から楽しんでいただければと思います。