犬の進行性網膜萎縮症と遺伝子検査
近年、アニコムパフェ株式会社とアニコム先進医療研究所が麻布大学と共同で進めた研究により、犬の進行性網膜萎縮症(PRA)に対する遺伝子検査が大きな影響を与えていることが明らかになりました。この研究が注目される理由は、遺伝子検査によってミニチュア・ダックスフンドにおけるPRAのリスクが劇的に低下したからです。
PRAの概要と遺伝子の関与
PRAは犬が視覚を失い、最終的に失明してしまう遺伝性の眼疾患です。特にミニチュア・ダックスフンドにおいては、RPGRIP1遺伝子の挿入変異が主な原因とされています。2010年代後半から日本の犬業界ではこの遺伝子を対象とした消費者向け遺伝子検査が普及し、ブリーダーらがリスクの高い犬を繁殖しないよう選別する動きが強まってきました。
日本国内で行われた大規模な調査では、2014年から2022年の間に生まれた30,800頭のミニチュア・ダックスフンドが対象とされています。この期間、遺伝子検査の結果が用いられるようになった2019年から2020年にかけて、ホモ接合型保有個体の割合が約70%も減少したのです。この急激な変化は、遺伝子に基づく適切な繁殖が短期的に効果を発揮したことを示しています。
遺伝的多様性の維持
興味深いことに、リスクアレルの頻度が減ったにもかかわらず、集団内の遺伝的多様性は維持されていることが確認されました。SNPアレイと呼ばれる高精度な解析手法を用いて、ミニチュア・ダックスフンドの集団における遺伝的構造を調査しましたが、近交係数に有意な変化が見られなかったのです。これは、遺伝子検査を導入することによって、繁殖の質が向上したためと考えられます。
PRA発症との関連性
さらに、保険請求データを用いた分析によって、PRAの発症リスクとRPGRIP1遺伝子の関連性が明確に示されました。378頭のミニチュア・ダックスフンドを対象とした調査では、PRAを発症した犬の57.1%がリスク変異のホモ接合体であることが確認されました。これにより、リスクアレルとPRA発症との関連が日本全体で初めて明らかになりました。
PRAの初回請求年齢は、主に11歳頃にピークを迎えることも分かりました。これに基づくと、遺伝子検査によってリスクアレルが減少した世代の犬が成長する2020年代後半から2030年代には、PRAの発症が実際に減少することが期待されます。このことは、犬の健康寿命と生活の質(QOL)が向上することにもつながるでしょう。
今後の期待と課題
研究の結果、遺伝子検査が保有率を効果的に低下させた一方で、依然としてPRAリスクが高いホモ接合体が少数存在していることが確認されています。また、MAP9と称される別の遺伝子との関連性も指摘されています。これらの検討を踏まえ、より適切な繁殖方法の採用が求められています。
アニコムグループは、今後も様々な研究を通じて獣医療の発展及び動物福祉の向上を目指していく所存です。今後の研究成果にもご期待ください。
本研究は、2025年12月10日にElsevier社が刊行する学術誌『Veterinary and Animal Science』にてオンライン公開されます。興味のある方は、ぜひ論文をご覧ください。