植物原料由来の高機能パラフィンオイルの誕生
花王株式会社が、植物由来の高機能パラフィンオイルを開発したことは、環境に配慮した新たな選択肢を業界に提供するものです。これまで、パラフィンオイルの原料としては主に石油を使用してきましたが、今回の開発により植物由来の素材がその選択肢として登場しました。
この研究の発表は、2025年10月に北海道函館で行われるトライボロジー会議で行われる予定です。従来、パラフィンオイルは炭化水素を基にした極めて安定した油として、医療や工業など幅広い分野で使用されてきました。その多くは石化由来であり、植物原料の利用はこれまで技術的な課題が多く、実現が難しいとされていました。花王はこの課題を克服し、独自の技術開発を進めることで、新たな選択肢を生み出しました。
独自技術の開発の背景
植物由来のパラフィンオイルを製造するには特別なノウハウが求められます。花王は、アブラヤシから抽出した固体油脂をオレフィンに変換する技術を持っており、そこから洗浄用の界面活性剤「バイオIOS」を製造しています。この技術を応用し、植物由来のオレフィンをパラフィンオイルの原料として使用することを検討しました。
オレフィンをそのままパラフィンオイルに変換するだけでは引火点が低く流動性も悪いため、実用性のある製品にはなりませんでした。そのため、花王は界面活性剤の研究で培った技術を活かして、特別な触媒を開発しました。この触媒により、パラフィンオイルの分子構造を精密に設計できるようになり、引火点や粘度、流動性を調整可能にしました。これにより、不安定な植物原料を使用しても品質の安定化が実現しました。
特徴ある新しいパラフィンオイルの機能性
今回開発された植物由来のパラフィンオイルは、さまざまな機能性を備えており、実用化に向けた有利な特長が確認されています。まず、高引火点が挙げられます。一般的に工業用オイルは火災リスクを伴いますが、このオイルは引火点が250℃以上と高いため、より安全に取り扱うことができます。この特性は、データセンターでの冷却液などの用途に適しています。
また、優れた粘度特性も魅力の一つです。通常のオイルは低温下で粘度が増加し流動性が落ちますが、本パラフィンオイルは広範囲な温度で低粘度を保ちます。これにより、機械や自動車エンジン等の潤滑油として使用する際、ポンプへの負荷を軽減し、燃費やエネルギー効率を高めることが期待できます。さらに、高潤滑性をもっており、金属表面に強固な油膜を形成します。この特性により、機械部品間の摩擦を減少させ、長寿命化とメンテナンス頻度の低下が見込まれます。
今後の展望
花王はこれらの特徴ある環境配慮型パラフィンオイルを、データセンター向けの冷却液や潤滑油、プロセスオイルとしての用途で活用していく方針です。工業用途にとどまらず、他の分野への応用の可能性も探求していくことで、持続可能な社会の実現に寄与したいと考えています。今後、花王のさらなる技術開発から目が離せません。