インパクト投資を巡る新たな調査とその意義
2023年、一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)と一般社団法人インパクトスタートアップ協会(ISA)が共同で実施したアンケート調査が、インパクトを志向するスタートアップ企業の実態を明らかにする重要なファーストステップとして注目を集めています。この調査は、インパクトスタートアップの資金調達や運営に関する課題を理解することを目的としており、その成果は今後の政策形成にも大きな影響を与えると考えられています。
調査背景と目的
今回の調査は、インパクトスタートアップが抱える課題を把握し、資金提供者や行政との対話を促進するための基礎データを取得することを目的としています。特に、日本におけるインパクト投資がどの程度有効に活用されているのか、また、スタートアップ側がどのような支援を必要としているのかを探ることが重要視されました。これにより、投資や制度が充実する市場環境を整えるための施策が求められています。
調査概要
アンケート調査は2025年の2月から4月にかけて実施され、対象者はインパクトスタートアップ協会の正会員企業に限られました。6つのセクションから構成され、合計14問が用意されています。特に注目すべきは、SIIFとISAのデータを基にした詳細な解析を行ったことです。回答者数は38社で、回答率は18%という結果が示されました。この数字は、調査対象の全体206社の中での反応を示しており、インパクトスタートアップの多くが資金調達に課題を抱えている現実が浮き彫りになっています。
主な調査結果の考察
調査の結果として、以下の重要なポイントが明らかになりました。
1. 資金調達の状況
回答者の約50%がアーリーステージに位置しており、資金調達の重要性が高い中、68.4%の事業者がインパクト投資を20%以下の割合でしか活用していません。しかし、80%以上の事業者が今後インパクト投資による資金調達に前向きであることがわかりました。これは、インパクト投資による資金調達の拡大の可能性を示唆しています。
2. IMMと情報開示
インパクト測定および管理(IMM)の取り組み状況を見ると、75%が事業改善に反映していると回答しています。しかし、情報開示の精度にはまだ課題が見られ、データだけでなくストーリーを現実として伝えることの難しさも指摘されています。
3. 組織体制の実効性
経営陣がIMMの必要性を認識していると答えた企業は51.4%を超えており、インパクトを組織に浸透させる努力がなされています。人材の配置や部門の設置、顧客分析への活用が進められており、これが経営に与える影響も期待されています。
4. 投資家との対話不足
投資家との対話においては、財務的なリターンとインパクトの両立をデータで示す企業はわずか24.3%にとどまっており、先入観を払拭できていない事業者も多いことが浮かび上がりました。この結果は、インパクト投資の地域および国際的な事例の不足も影響しているといえるでしょう。
5. 市場発展の阻害要因
インパクト投資の促進策が十分に整っていない実態が浮かび上がり、フィランソロピーや公共の資金支援が乏しいことが指摘されています。特に、市場を形成するためには政策や制度的な支援が必要不可欠であり、これらが障壁となっています。
6. 行政への期待
事業者は、行政に対してインパクト志向のスタートアップへの政策・制度的な支援、および長期的な取り組みを求めていることが強調されています。社会課題の解決には短期的な視点だけではなく、長期的な支援が不可欠であることが理解されています。
今後の展望
この調査の成果は、インパクトを志向するスタートアップと資金提供者、さらに行政との関係構築に寄与し、持続可能なインパクト・エコノミーの形成に向けて重要な役割を果たすことが期待されています。調査結果を基に今後は政策立案や支援制度の改善が進むことが望まれ、スタートアップが社会的課題の解決に積極的に挑戦できる環境を整える手助けとなるでしょう。インパクト投資が日本における新たな経済モデルとなることを期待しています。