江戸時代の日本。富山藩の下級藩士・金盛連七郎は、職を失い途方に暮れていた。そんな彼に与えられたのは、重臣・寺西左膳からの密命だった。この仕事は一般的な藩士の誓いを破るもの——即ち「抜け荷」を引き受けるという危険な任務。その成功は復職の約束と取引されたが、失敗すれば命すら危ない選択肢だ。どう考えても逃れることのできない苛酷な現実に、連七郎は挑む決断を下す。
旅の舞台は富山を出発し、蝦夷、薩摩と巡る日本一周を経て再び富山への帰路だ。連七郎は数々の困難な状況に直面するが、これまでの侍の生活とは異なる人々との出会いが待っていた。荒っぽい船乗りたちや、商人、そして美しいアイヌの娘の目に触れるたび、彼は自らの存在意義について考えを巡らせる。
連七郎の旅は、彼の内面を大きく変える経験となる。特に、さまざまな人々との交流を通じて、彼はこれまで見えなかった世界の広さを実感し、さらに深い感慨に浸るようになる。物語のクライマックスには、彼が目にした景色や人々との絆が織り込まれ、見事などんでん返しが訪れる。連七郎が新たな人生を築くきっかけとは一体何だったのか。
著者の仁志耕一郎は、富山県生まれ。広告会社勤務を経て作家の道に進んだ彼は、この作品を通じて歴史と人間ドラマを融合させた。冒険の中で描かれる心の葛藤や選択の重みが、読者に強いメッセージを届ける。
新潮文庫から8月29日に発売された『闇抜け密命船侍始末』は、巧妙なストーリー展開と共に、時代背景を感じさせる描写が魅力的な傑作だ。物語に込められた男たちの転機のメッセージは、時代を超えて私たちに響くものであり、ぜひ手に取って欲しい一冊である。これを読めば、江戸時代の人々の生き様や価値観を知ることができるだろう。そして、復職への道を照らす選択が、どのようにして連七郎の運命を変えていったのか、読み進めるうちに心を打つこと間違いない。
リンク:
新潮社