窒素の循環が生む持続可能な農業と健康な地球
2025年10月11日、大阪・関西万博会場で「いのち宣言」および「アクションプラン集」が発表されました。この取り組みは、地球環境を守るための新しいアプローチ「いのちをまもる」活動の一環で、その中心にあるのが窒素の良い循環です。
窒素は、私たちや生物にとって不可欠な要素ですが、その利用には大きな課題があります。自然界では、窒素固定菌が生成するアンモニアなどの形で限られた量しか利用できず、過去に発明されたアンモニア合成技術により、大量の人工的な窒素肥料が生み出されました。これにより農作物の生産量は劇的に向上し、世界人口の増加にも寄与しましたが、同時に環境への負担も大きくなりました。
人工的な窒素肥料は、作物に十分に吸収されず、土壌の劣化や水域の富栄養化といった問題を引き起こしています。特に陸上の動物の9割が人間と家畜となった現代では、彼らの排泄物が窒素問題を更に悪化させる要因となっています。これらの「うんち」は適切に循環利用されず、環境へと流出してしまうことが多いのです。
しかし、北海道のある酪農場では株式会社LIFULL Agri Loopが開発した鉄触媒を利用して、牛の糞尿を「おいしい窒素」に変える取り組みが行われています。この「うんちの循環(Poop Loop)」は、化学肥料に依存しない持続可能な農業を実現しています。
具体的には、糞尿タンクに触媒を入れることで、有害なアンモニアや温室効果ガスをほとんど出さず、とても臭いも発生しません。これにより、糞尿から生成された肥料成分が安定的に保持され、土壌を酸化から守ります。その結果、糖度の高い牧草が育ち、健康な牛が育ち、質の高い牛乳が生産されるのです。この仕組みが広まることで、農業生産性が向上し、環境負荷が軽減されるフローが生まれます。
現在、日本の畜産業で排出される糞尿に含まれる窒素は、国で使用されている窒素化学肥料とほぼ同量です。そのため、LIFULL Agri Loopは「うんちの循環」を通じて、2050年を見据えた取り組みを進めています。この技術が普及することで、土壌劣化や水域の窒素汚染を緩和し、温室効果ガスの削減にも寄与すると期待されています。
いのち会議は、このような窒素循環の重要性を広める活動を継続し、産学連携を図りながら新たな技術の発見と共創を支援していきます。未来の持続可能な環境と健康的な食糧システムの実現に向けて、ぜひともご関心を持っていただきたいと思います。私たちの地球を守り、未来を見据えた農業のあり方を一緒に考えましょう。
参考情報
本記事についての問い合わせは、いのち会議事務局または大阪大学 社会ソリューションイニシアティブ(SSI)へお気軽にご連絡ください。特任助教 宮﨑 貴芳(06-6105-6183)または教授 伊藤 武志にどうぞ。