本書『パパたちの肖像』の魅力に迫る
令和の時代、当たり前のように家事や育児に取り組むパパたち。そんな彼らの心の内を語る機会は、未だに十分ではありません。しかし、光文社から発表された小説アンソロジー『パパたちの肖像』は、実際に育児を行う7人の作家たちが描き出した、パパたちのリアルな思いや葛藤を集めました。
現代パパの育児事情
2024年には男性の育児休業を取得する割合が40%を超え、過去最高の数字が記録される見込みです。産後パパ育休制度の導入など、環境は着実に変わってきていますが、彼らが抱える思いや生きづらさを表現する作品はまだ少ないのが現実です。本書は、そんな現代のパパたちの心のうごきが感じられる貴重な一冊となっています。
本書に収められた短編は、各々が異なる視点から育児に取り組むパパの姿を描いています。外山薫の「ダディトラック」では、妻の出世に伴い家庭内での立場に葛藤を抱く夫の姿が描かれます。自らの居場所と役割が見えづらくなった時、どのように自分を保つのか、その思いに心が温まります。
物語から読み解くパパの心情
一方、行成薫は「俺の乳首からおっぱいは出ない」という作品を通じて、夜間の授乳で苦しむ妻に対する思いや、自分が親になりきれないもどかしさを軽妙に描写しています。この作品は、ユーモアの中にも深い愛情を感じさせるものです。
さらに、岩井圭也の「連絡帳の父」では、過去に残る父の筆跡を通じて、幼少期を振り返る主人公の姿を描写。トミカの紛失を題材にした似鳥鶏の「世界で一番ありふれた消失」は、共育の中での失敗や日々の小さな冒険を描き、読む人に親しみを与えます。
育児と家族の絆を描く
逆に、石持浅海の「息子の進学」では、息子の成長を見つめる父の感情が深く掘り下げられ、親子の絆の強さを伝えています。不器用さに悩む父親の姿は、河邉徹の「髪を結ぶ」で表現され、この物語も様々な家庭の実情を映し出すものです。
また、カツセマサヒコの「そういう家族がそこにある」では、共働きの家庭が抱える現実を通じて、選択の重要性や価値観の異なる家庭の形を見ることができます。これらの物語は、令和の家族の実像を余すことなく描き出しています。
絶賛の声と座談会
本書に対する賛辞も多く寄せられています。書評家の吉田大助さんは、現代のパパたちの頑張りが新しいロールモデルになると称賛し、雑誌編集長の羽城麻子さんも、パパの心情を描くことの重要性を強調しました。
また、8月22日発売の「小説宝石9月号」では、作品に登場する作家たちによる座談会が行われます。この座談会では、彼らの赤裸々な思いや思索が掘り下げられ、さらなる理解が得られそうです。
まとめ
『パパたちの肖像』は、現代の育児に取り組むパパたちのリアルな姿を描いた感動的な物語の数々です。現役のパパやママはもちろん、将来子供を持つことを考えている人にもぜひ手に取っていただきたい一冊です。育児に関する様々な思いを新たに認識する機会となることでしょう。