日本の看護職者の意識調査:気候変動が健康に及ぼす影響への認識と課題
2024年11月、特定非営利活動法人日本医療政策機構(HGPI)と新潟大学大学院保健学研究科が実施した、日本の看護職者を対象とした気候変動と健康に関する調査結果が発表されました。本調査は、COP29開催を前に、気候変動と健康、持続可能な医療システム、気候変動政策に関する意見を集めることを目的として、全国1,200人の看護職者から回答を得ています。
調査結果からは、日本の看護職者の多くが気候変動と健康との関連性について認識している一方で、正確な知識を持っている者は限定的であることが明らかになりました。また、多くの看護職者は気候変動が重要な課題であるとの認識を示しており、気候変動と健康の関連に関する学習やGHG排出削減の取組みに意欲的であることも分かりました。
気候変動への認識:高い関心と危機感
調査では、看護職者の約70%が世界のあらゆる地域で気候変動が起きている事実を認識しており、93%が日本において何らかの異常気象が発生していると認識していました。さらに、異常気象を認識している者のほとんどが、気候変動が原因であると回答しており、異常気象により生命の危険を感じている者もいました。
知識不足と教育機会の不足
一方で、気候変動と健康影響に関する正確な知識を有している看護職者は少なく、全問正答率はわずか42%でした。「プラネタリーヘルス」という言葉についても、浸透しているとは言い難く、11.2%の看護職者しか認識していませんでした。さらに、気候変動が健康に与える影響に関して、看護職者が教育を受ける機会はきわめて限定的であるという現実も浮き彫りになりました。
行動意欲と課題:実践へのギャップ
多くの看護職者は、気候変動が重要な課題であり、「気候変動と健康」に関する知識を学ぶ必要があると考えており、学習意欲も高いことが分かりました。また、環境への負担が少ない保健医療サービスを提供するための選択肢があれば、積極的に採用すべきだと考えている看護職者も多数いました。
しかし、具体的な実践方法が分からないと回答した看護職者も約半数に上り、所属施設における組織的な取り組みも十分とは言えない状況です。廃棄物管理やデジタル技術の利用など、一部の取り組みは行われていますが、エネルギー管理や環境に配慮した施設管理、持続可能なサプライチェーンの利用など、より広範な取り組みは遅れているのが現状です。
看護職の役割:患者への教育と社会への提言
看護職者の多くが、気候変動が及ぼす健康への影響について、患者/対象に教育する役割を担うことができると回答しました。また、約70%の看護職者が仕事以外の時間で、家族や友人・近隣住民など身近な人々に、健康・医療に関する情報提供や相談・支援をする機会をもつことから、看護職者が気候変動に関する正確な知識や行動規範を獲得することで、市民にとっての擁護者あるいは保護者、もしくは気候変動政策の提唱者として気候変動への適応策および緩和策の策定に向けて重要な役割を担うことが期待されます。
今後の展望:教育の充実と組織的な取り組み
本調査の結果から、看護職者の気候変動に関する知識不足や組織的な取り組みの遅れが、行動意欲を阻害している現状が明らかになりました。今後、職能団体や学会などが、看護職者の専門領域に関連させて気候変動のトピックを扱い、教育機会を増やしていくことが重要となります。
また、看護職者が日々行っている業務に環境への意識を広げることで、労力や負担を抑えて取組みが推進されることが期待されます。看護職者が環境への配慮を意識した行動をとることで、施設の構造やシステムだけでなく、施設管理や業務慣行などのソフト面からも変化が期待できます。
さらに、看護職者が市民に対して気候変動に関する正確な知識や行動規範を伝えることで、気候変動への適応策および緩和策の策定に向けて重要な役割を果たすことが期待されます。
本調査は、日本の看護職者の気候変動への認識、知識、行動意欲、そして課題を浮き彫りにしました。これらの結果を踏まえ、看護職者が積極的に気候変動対策に取り組むための環境整備が求められます。