新しい蛍光プローブの開発
2025-10-10 09:33:27

細胞内脂質代謝を可視化する新たな蛍光プローブの開発とその意義

新たな蛍光プローブによる脂質代謝解析



名古屋大学の山口茂弘教授率いる研究チームは、細胞内の脂質代謝を可視化するための新しい蛍光プローブ「LipiPB Red」を開発しました。このプローブは、特に脂肪滴での脂質の加水分解が進む際に、蛍光寿命が変化する特性を持ちます。これにより、従来困難だった脂質の代謝状態をリアルタイムで把握できるようになります。

研究の背景と必要性



脂質は生物の生命維持に不可欠な役割を果たしており、細胞膜の構代やエネルギー源、またシグナル伝達分子としても重要です。脂質代謝の異常は、がんや糖尿病、肥満、動脈硬化といった重大な健康問題に直結します。これらの疾患を理解するためには、脂質の代謝を担う脂肪滴の動態を明らかにする必要があります。

ところが、これまで開発されてきた蛍光プローブは脂肪滴の大きさや動きの可視化はできても、内部の代謝状態を把握することが難しい状況でした。そこで、今回の研究によって新たなプローブが必要とされました。

開発されるプローブ「LipiPB Red」



「LipiPB Red」は、トリグリセリド(TAG)とその加水分解生成物であるジグリセリド(DAG)の比率に応じて蛍光寿命を変化させる特性を持つプローブです。この特性を利用し、研究チームは肝臓がん細胞内での脂肪滴の動態を観察しました。その結果、同じ細胞内でも脂肪滴ごとに加水分解が進む速度が異なることがわかりました。

肝臓がん細胞における不均一性



特に肝臓がん細胞においては、脂肪滴の内部に存在するTAGとDAGの比率が異なり、その違いは主に脂肪分解を担う酵素ATGLによるものであることが判明しました。この発見は、肝臓がんなど特定の疾患における脂質代謝の理解を深める上で非常に重要です。

リポファジーの役割



さらに、研究者たちは脂肪滴を選択的に分解する「リポファジー」と呼ばれるオートファジー経路も明らかにしました。この分解過程でもTAGの加水分解が進むことが確認され、リポリシスとリポファジーが協力しあって脂肪滴を分解していることが分かりました。

今後の展望



この新しいプローブ「LipiPB Red」の開発は、脂質代謝に関する研究を革新するだけでなく、疾患理解や新しい治療法の開発にもつながると期待されています。今後、この技術がより多くの研究に活用されることで、がんやその他の生活習慣病に対する新しいアプローチが可能になるでしょう。

この研究の成果は国際的な科学雑誌 『Journal of the American Chemical Society』 にも発表され、世界中の研究者から注目を集めています。私たちの健康への影響が大きい脂質代謝の研究が進むことを願っています。


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