生成AI活用によるインバウンド推進実証実験の成果
2023年、日本のインバウンド市場は急速に回復しています。観光庁のデータによると、2024年には訪日外国人旅行者数が2019年比の115.6%に達すると予測されており、自治体や観光地域づくり法人(DMO)が成功に向けての努力を加速させています。そんな中、株式会社リクルートの『じゃらんリサーチセンター(JRC)』が実施した生成AIを用いたインバウンド対応の実証実験が注目を集めています。この実験では、熱海市をモデルとし、マーケティング分析の効率化や多言語対応、地域情報の発信を行い、その成果を立証しました。
実証実験の背景
近年の観光需要の回復に伴い、自治体やDMOは膨大なデータの分析や多言語対応に苦慮しています。限られたリソースの中で、訪日観光客の動向を把握し、関連データを整備する必要があります。そこでJRCは、効率的なマーケティングと情報発信のために生成AIの活用を決定し、観光情報の能力を向上させることを目指しました。特に熱海市は多くの観光客が訪れる一方で、インバウンド対応が進んでいない状況でした。これを受けて実証実験が設計されました。
実証実験の主なアプローチ
実験は主に三つの方法を用いて進行しました。
1.
AIインバウンドマーケティングツールの利用:主要市場である台湾、香港、アメリカからの訪問者データを解析し、熱海市の競争力を明確にしました。コメントや検索トレンドを基に訴求ポイントを抽出し、プロモーション戦略の基盤を構築しました。
2.
観光データのAI分析支援:観光案内所での問い合わせデータを生成AIで要約し、頻繁に関係者へと共有する仕組みを作り出しました。これにより業務負担を軽減し、迅速な情報把握を可能にしました。
3.
AI多言語ツールの導入:観光情報を英語や中国語に翻訳し、ネイティブチェックを通じた品質評価を実施。また、利用者のニーズに応じた情報発信を可能にしました。
実験結果とその影響
本実証実験の結果、業務を最大15分の1に削減できることが判明しました。
マーケティング分析の効率化
AIを活用することで、市場別の訪問者特性を迅速に解析し、競争優位性を明確化しました。これにより、従来の手作業によるデータ収集の手間が大幅に削減されました。
旅行者データ分析
観光案内所で収集した訪日観光客のデータを自動で分類・分析し、関係者間で迅速に共有する仕組みが整いました。これにより、インバウンド対応の意思決定がスピーディーに行えるようになりました。
多言語対応の質向上
翻訳精度も大幅に向上し、最適なメッセージを提供できるようになります。特に、SNSやウェブサイトに合わせた適切な言葉の生成が可能になり、情報発信のスピードも向上しました。
持続可能な環境の構築
昨今の実験を通じて、新たな持続可能なデータ活用モデルを確立しました。手頃なコストでのAI活用が実現できるため、今後の自治体やDMOでの活用が期待されています。
担当者のコメント
「生成AIを用いることで、資源が限られた中でも、効率的に方針を策定できると確認できました。特に、誰でも情報を簡単に把握できるのは大きなアドバンテージです」と松本百加里研究員はコメントしています。今後、この実証結果を踏まえ、他地域へのサービス展開を視野に入れていくとのことです。
観光庁では、2023年3月5日に本実証の詳細を発表する報告会を開催予定です。観光DXを推進する上で、生成AIの活用がいかに有効であるか、広く伝えられることが期待されます。