世界初の臨床試験
千葉大学の横手幸太郎学長を筆頭とする研究チームが、早老症の一種であるウェルナー症候群に対する新たな治療法を発見しました。この研究では、NAD+の前駆体であるニコチンアミドリボシド(NR)を用いた臨床試験が実施され、患者の動脈硬化指標や皮膚潰瘍、腎機能の改善が確認されました。
研究の背景
ウェルナー症候群は、特定の遺伝子変異によって引き起こされるまれな疾患で、早老症という特徴を持つ病気です。主な症状には、脱毛や白内障、糖尿病、そして動脈硬化による高齢者よりも早期の心筋梗塞リスクが含まれます。患者の平均寿命は60歳未満とされ、生活の質が深刻に影響される場合が多いです。このため、早急な治療法の確立が求められています。
研究方法と成果
今回の臨床試験では、ウェルナー症候群の患者を対象に、NRを1日1000mg投与する方法が取られました。試験は二重盲検無作為化クロスオーバープラセボ対照方式で実施され、安全性と有効性が評価されました。
評価の結果、NR投与後に血液中のNAD+値が有意に上昇し、動脈硬化の指標であるCAVIが改善しました。また、皮膚潰瘍の面積もNR投与後に縮小が認められ、腎機能の改善に関連するメタボローム解析でも良好な結果が得られました。肝酵素の一部が軽度であったものの、重大な有害事象は確認されませんでした。
今後の展望
研究チームによると、NRはウェルナー症候群における動脈硬化や難治性皮膚潰瘍に対する有用な治療法としての可能性を秘めています。この成果をもとに、他の早老性疾患や加齢に伴う健康問題への治療法開発が期待されています。これにより、患者の生活の質を向上させ、健康寿命の延伸に寄与できる日が来ることを願っています。
参考文献
1. Kato H, et al. Orphanet J Rare Dis. 2022;17:226.
2. Takemoto M, Yokote K. Geriatr Gerontol Int. 2021;21:131−132.
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