研究の背景
慢性腎臓病とは、腎機能が徐々に低下していく病気のことです。この病気の進行に関与する要因として、蛋白尿が挙げられています。腎臓は血液から老廃物をろ過し、尿として排出しますが、その中心的な部分が糸球体です。糸球体は、特別な細胞である糸球体足細胞(ポドサイト)によって保護されています。これらの細胞は通常、尿に蛋白質が漏れるのを防ぐ役割を担います。しかし、慢性腎臓病では糸球体が傷つき、ポドサイトも損傷を受けるため、蛋白尿が発生します。
慢性腎臓病の進行を引き起こすメカニズムは完全には理解されておらず、適切な治療方法も限られています。そこで、ポドサイトの損傷や炎症に関連する分子の特定が求められています。そこで研究チームはケモカインの一種であるCCL5に注目しました。
研究の成果
研究チームの発見によれば、CCL5は慢性腎臓病において相反する役割を持っていることが判明しました。特に、CCL5はポドサイトに対して保護的に作用する一方で、慢性腎臓病を進行させる要因でもあります。CCL5が豊富に存在するポドサイトにCCL5を加えると、ポドサイトの障害が軽減されることがわかりました。
さらに、CCL5が存在しないマウスに慢性腎臓病を引き起こすと、逆に腎障害が改善する結果になりました。このことから、CCL5は、腎障害の際に免疫細胞であるマクロファージを介して悪化させる要因であるとされます。研究チームは、CCL5の機能に注目し、ポドサイトにおけるその影響を調査しました。結果として、CCL5は炎症性マクロファージ(M1)を増加させ、腎障害を悪化させることが判明しました。
今後の展望
本研究から、CCL5がポドサイトに対して保護的である一方で、炎症を引き起こす作用があることが明らかになりました。これにより、慢性腎臓病の新しい治療法の開発に向けた道筋が見えてきました。今後は、CCL5の具体的な作用メカニズムをさらに解明し、慢性腎臓病の治療薬の開発に繋げることが期待されています。
用語解説
- - ケモカイン: 免疫細胞を炎症のある場所に誘導する役割を持つ蛋白質。
- - CCL5: 免疫細胞以外にも多くの細胞が生成するケモカインで、炎症や免疫反応に関与する。
- - 糸球体足細胞(ポドサイト): 糸球体に存在し、尿中に蛋白質が漏れないようにする役割を持つ細胞。
- - マクロファージ: 体内に侵入した異物を消滅させる免疫細胞で、炎症性マクロファージ(M1)と抗炎症性マクロファージ(M2)に分化する。
論文情報
- - タイトル: CCL5 paradoxically regulates glomerular injury by skewing macrophage polarization
- - 著者: Ika N. Kadariswantingshi, Issei Okunaga, Kaho Yamasaki, et al.
- - 雑誌名: JCI Insight
- - DOI: 10.1172/jci.insight.173742
研究プロジェクト
この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金の支援を受けて行われました。