デジタルキャンセル処理が切り拓く放送TS信号伝送の未来
2025年10月5日、株式会社メディアリンクス、アストロデザイン株式会社、株式会社国際電気、セイコーソリューションズ株式会社、株式会社毎日放送の5社が共同で行った放送TS信号の伝送実験が、国内で初めての成功を収めました。この実験では、デジタルキャンセル処理という新技術が用いられ、PTP(Precision Time Protocol)未対応のIPネットワーク上での放送信号の送信が可能となりました。
実験の背景と目的
放送業界では、情報伝達の迅速化と正確性が求められており、特に災害時のビジネス継続計画(BCP)として放送システムの強固さが重要視されています。今回の実験では、同一チャネルにおけるFPU(Field Pickup Unit)2対向を使用し、IPネットワークを構築することを目指しました。この方法は、複数の送信機を同時に運用する際の干渉を解消し、効率的な信号伝送を実現します。
技術の詳細
今回の実験にあたっては、国際電気社製の7GHz帯と10GHz帯のFPUを使用し、双方向のTS(Transport Stream)伝送を行いました。従来は、異なるチャネルで運用する必要がありましたが、新開発のデジタル処理技術により、同一チャネルでの運用が可能になりました。これにより、映像や音声の品質を落とすことなく、安定した送信が実現しました。
さらにアストロデザイン社製のCX-5548Aを用いて、FPUのTS入出力をIPに変換しました。そこにメディアリンクス社のMDP3020 SFNを介して、放送信号をIPパケット化し、SMPTE ST2022-2準拠で伝送するシステムを構築しました。加えて、PTP同期を行うために、セイコーソリューションズ社のPTPグランドマスタークロックTS-2950を導入しています。
実験結果と今後の展望
この実験により、PTP非対応のIPネットワーク上でも高精度な時刻同期が可能であることが確認されました。RPTP(Resilient PTP)技術により受信側での伝送遅延を平準化することができ、結果として、放送TS信号の安定的な伝送が可能となりました。
今後、この技術をさらに発展させ、地上デジタル放送の中継ネットワークの多様化と冗長化を進めていく方針です。草の根的な取り組みから、放送業界のIP化を促進し、より強靭なネットワークを構築するための検証作業を続けていく予定です。この協業によって、災害時などの緊急時にも対応できる伝送手段としての信頼性が高まることが期待されます。
まとめ
地上デジタル放送の技術革新が進む中、共同でのイノベーションが今後も続くことで、私たちの受信するメディア環境が一層豊かになることが期待されます。メディアリンクスとそのパートナー企業による次世代の通信手法は、放送業界に新たな風を吹き込むでしょう。これからの技術進展から目を離せません。