新潮文庫から新たに刊行
2023年3月28日、哲学書『中動態の世界 意志と責任の考古学』が新潮文庫から刊行されます。本書は、著者である國分功一郎氏が2017年に発表した作品の文庫版で、失われた文法の概念「中動態」を中心に置き、人間の思考の枠組みに新たな光を当てた重要な著作です。
中動態の概念とは
「中動態」という言葉は、古代インド=ヨーロッパ語の文法において存在したが、現代の教育ではあまり教えられることがありません。この概念は、能動と受動の二項対立を超えた位置にあり、人間の主体的な自由の理解に深く関与します。たとえば、「誰かを好きになる」という行為を考えてみましょう。この場合、それが能動的か受動的かを決定することは難しいように思えます。「好きになろうとする」行為もなければ、「強制される」こともありません。このように、日常的な表現には、従来の二項対立では説明できない「中動態」の理解が隠れているのです。
著者の國分功一郎氏は、私たちの思考がどのようにこの対立に縛られているのかを探り、自由の本質に迫るために、歴史の中から忘れ去られてしまったこの概念に再び注目しています。本書は人間の不自由さを見つめ、新たな自由を追求するための思想を提供します。
哲学書としての評価
『中動態の世界』はその内容の深さや独自の視点から、およそ哲学書とは思えないほどの広範な読者層を獲得しています。特に、前著『暇と退屈の倫理学』が累計40万部を突破したこともあり、その流れを汲んで注目されています。本書は、さまざまな分野の著名人からも高く評価され、多様な見解が寄せられています。映画監督の濱口竜介氏は、「この本は世界の見え方を一新させる」と絶賛し、他者との関係性を見直す手助けになると述べています。
美学者の伊藤亜紗氏も特に、「中動態」が提供する新たな視点は、従来の言語学の枠を超えて新しい世界の読み解き方を示していると評価しています。また、紀伊國屋じんぶん大賞を受賞している斎藤哲也氏は、中動態の謎を解く旅に誘われるような心地良さを見せつつ、自由についての新たな洞察を得られる本だと語っています。
新たな補遺も収録
文庫版にあたっては、新たに補遺「なぜ免責が引責を可能にするのか──責任と帰責性」が追加されています。この部分では、作者が意志と責任の関係についてさらに深掘りした考察が展開されています。「責任」とは何か、そしてそれを負うことの意味についての問いかけがなされています。
結論
『中動態の世界 意志と責任の考古学』は、ただの哲学書にとどまらず、私たちの日常生活に密接に関わる考察を行うことで、より自由な生き方を求めるための道しるべとなる一冊です。興味を持つ方にとって、新しい思考の枠組みを提供してくれるでしょう。ぜひ手に取って、新たな視点を得てみてください。