肺がん治療の転換期:多遺伝子検査実施率の急増と今後の展望
近年、がん治療において遺伝子検査の重要性が高まっています。特に肺がんは、がん死亡原因のトップであり、その多くを占める非小細胞肺がんでは、複数の遺伝子変異が関与することが明らかになっています。このため、患者個々の遺伝子変異を特定し、最適な治療を選択するための多遺伝子検査(マルチプレックス遺伝子パネル検査)が注目されています。
この度、株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)と一般社団法人アライアンス・フォー・ラング・キャンサー(A4LC)が共同で実施した調査結果が、医学雑誌『Cancer Medicine』に掲載されました。この調査は、医療ビッグデータを用いて、2019年から2022年までのステージIVの非小細胞肺がん患者における多遺伝子検査の実施状況を全国的に分析したものです。
多遺伝子検査の重要性:分子標的薬との連携
非小細胞肺がんには、現在9種類のドライバー遺伝子と、それらに対応する18種類の分子標的薬が承認されています。分子標的薬は、従来の抗がん剤とは異なり、特定のがん遺伝子に直接作用するため、高い効果が期待できます。しかし、これらの薬剤を使用するためには、事前にコンパニオン診断検査を行い、対象となる遺伝子変異の有無を確認する必要があります。
以前の報告では、非小細胞肺がんに対する多遺伝子検査の実施率が低いことが課題として指摘されていましたが、今回の調査では、その状況が大きく変化していることが示されました。
調査結果:実施率の増加と課題
調査対象となったのは、204病院の15,719人のステージIV非小細胞肺がん患者です。その結果、2019年から2022年にかけて、遺伝子検査を受けなかった患者の割合は21.5%から33.1%へと減少しました。一方で、2021年後半からは、5種類以上のドライバー遺伝子について検査された患者の割合が大幅に増加しました。これは、多遺伝子検査の普及と、より包括的な遺伝子解析への需要の高まりを示唆しています。
しかし、依然として2割以上の患者が遺伝子検査を受けていないという現状も明らかになりました。この背景には、検査へのアクセス、検査費用、医療現場の認知度などの課題が考えられます。
今後の展望:さらなる啓発と普及の必要性
今回の調査結果は、多遺伝子検査の実施率向上に向けた取り組みの重要性を改めて示しました。医療関係者による啓発活動の強化、検査アクセスの改善、費用負担の軽減策など、多角的な取り組みが求められています。
また、遺伝子検査の結果に基づいた最適な治療を選択するためには、医療機関間の連携強化も不可欠です。患者個々の状況に合わせた情報提供と、治療方針の決定において、医療チーム全体による綿密な議論と連携が重要となります。
今後、より多くの患者が遺伝子検査を受けられるようになり、一人ひとりに最適な治療が提供されることで、肺がん患者の予後改善に繋がることが期待されます。 GHCは、医療ビッグデータ分析に基づく経営支援を通して、医療現場の質向上にも貢献していきます。 A4LCは、患者支援活動を通じて、遺伝子検査の普及啓発にも取り組んでいきます。
GHCとA4LCについて
GHCは、医療資格者多数在籍の急性期病院向け経営コンサルティングファームです。1000病院以上の診療データを基に、質の高い医療と経営の両立を目指した支援を行っています。一方、A4LCは、肺がん患者とその家族を支援する団体として、患者会やアドボケート、情報メディアと連携し、患者中心の活動を行っています。両者の連携により、今回の調査は実現しました。