第19回小説現代長編新人賞受賞作発表
2024年3月、小説業界の中で重要なイベントの一つである第19回小説現代長編新人賞が発表されました。この賞は、株式会社講談社の主催によって毎年開催されており、若手作家たちにとって大きなステップとなる機会です。今年の受賞作には、朝宮夕さんの「薄明のさきに」が選ばれました。この作品は、納棺師としての職務に従事する人々の姿を通じて、生と死の重みを描き出す心に響く物語です。
受賞対象作品について
「薄明のさきに」は、特に傷の多い遺体を扱う納棺師が主人公の作品で、葬儀業界を舞台にした物語です。その中で、死という現実に直面しながら、主人公がどのように人間としての生を考えていくのかが描かれています。その物語の中で選考委員から寄せられた評価は非常に高く、多様な人間の感情に寄り添う描写が特に評価されました。
今村翔吾さんは、この作品に「執念の如き力を感じた」と評し、塩田武士さんは「納棺作業のリアリティには他者にない強さがあった」とコメントしています。また、中島京子さんは「チャレンジングな作品」と表現しました。
一方、選考委員特別賞には迂回ひなたさんの「梅咲く頃にまた会おう」が選ばれました。この作品は、大学生の主人公が幽霊との再会を果たすという不思議な恋愛物語で、選考委員の凪良ゆうさんから「小説は楽しい、ということを伝えられる強さを持っている作品」と評価されました。
作品の背後にあるストーリー
「薄明のさきに」は、葬儀会社の一部門で新入社員として働く主人公が、多様な死に向き合う中で自分自身を見つめ直す過程が描かれています。彼が経験する喪失感や、亡くなった人々とその遺族への思いが、ストーリー全体に深い感情をもたらします。また、作品には納棺師の仕事のリアルさと人々が抱える普遍的な問題が織り交ぜられており、読者を惹きつけます。
入賞者の言葉
受賞した朝宮夕さんは、作品に対する自身の思いを次のように語っています。「私は何もない日々が続く中で、なぜこの作品を書いたのか考えるようになりました。この物語は、身近な『死』を通じて生を見つめ直すことの大切さを伝えたいと思った結果生まれたものです。」
また、特別賞受賞の迂回ひなたさんも「信念は道を拓く」との思いを語り、作品を通じて読者に温かいメッセージを届けたいと述べました。
コンペの結果
第19回小説現代長編新人賞には、締め切りまでに641編もの応募がありました。その中から101編が一次選考を通過し、さらに16編が三次選考へ進んだ結果、最終的に5作品がノミネートされました。朝宮夕さんの受賞作は、その中でも特に光るものとして選考委員に認められたのです。
今後の展望
受賞作の「薄明のさきに」は、タイトルが変更されて7月に単行本として出版される予定です。また、特別賞受賞作の「梅咲く頃にまた会おう」も同様に発売される予定で、両作品とも多くの読者に感動を与えることでしょう。いずれの作品も、各月刊誌で紹介されたり、取材を受けたりするなど、これからの活躍が期待されている新しい才能たちです。
「小説現代」3月号からは、本作の抄録が掲載されており、興味のある方はぜひ手に取ってご覧ください。今後の作家たちの成長にもぜひ注目して、彼らの物語に触れてみてください。