サントリーグループと革新的なグリーン・アグリテックスタートアップである株式会社TOWINGが、持続可能な社会実現に向けた画期的な実証実験を開始しました。この取り組みは、サントリーの飲料製造過程で生じる残渣を原料に、TOWINGが開発した高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を製造・活用するというもの。単なる廃棄物処理に留まらず、新たな価値を生み出す「アップサイクル」と、地球温暖化対策の重要課題である「温室効果ガス(GHG)排出削減」を同時に追求する、まさに未来志向の挑戦です。
廃棄物を宝に変える「アップサイクル」の挑戦
日本国内で年間排出される産業廃棄物のうち、食品ロスや農作物残渣といった農業由来の廃棄物は全体の約2割を占めると言われています。これらの多くは焼却や埋め立て処理され、環境負荷の増大や資源の無駄遣いとして長年問題視されてきました。こうした現状に対し、サントリーとTOWINGは独創的な解決策を提示します。今回の実証実験では、まずサントリーの緑茶製造過程で発生する「緑茶粕」を炭化させたバイオ炭を基盤に、TOWINGが独自に保有する有機肥料の分解促進機能を持つ微生物群を付着させた「高機能バイオ炭」を製造。これにより、これまで廃棄されていた資源が、農業に新たな価値をもたらす画期的な資材へと生まれ変わります。将来的には、サントリーの多岐にわたる製造残渣を原料として高機能バイオ炭を製造する計画が進められており、資源循環型社会への貢献がさらに期待されます。
再生農業で切り拓く、収穫量と環境保全の両立
世界の温室効果ガス排出量のうち、農林業由来が約13%を占めるとされ、特に化学肥料の製造・使用は多大なGHG排出源となっています。再生農業は、土壌の健全性を保ち、生物多様性を守りながら持続可能な農業を実現する手法として注目されています。有機肥料を用いた栽培はGHG排出削減に貢献しますが、肥料の利用効率が低いことや収穫量減少といった課題も抱えていました。ここで高機能バイオ炭「宙炭」が真価を発揮します。有機肥料と高機能バイオ炭を同時に農地に施用することで、肥料の利用効率が飛躍的に向上し、農作物の品質や収穫量の増加が期待できます。これにより、化学肥料への依存を抑制し、GHG排出削減に大きく貢献するのです。これは、環境負荷低減と農産物の安定供給という、一見相反する目標を両立させる可能性を秘めています。
実証実験の成果と再生農業の確立へ
今回の実証実験では、サントリーの契約農場にて「チャノキ」を対象に実施されています。高機能バイオ炭を散布した有機肥料栽培と、通常の有機肥料栽培を比較調査した結果、すでに完了している第1期収穫では、高機能バイオ炭を散布した農地において、農作物の品質を維持しつつ、収穫量が増加するという驚くべき成果が確認されました。この初期成果を受けて、両社は第2期以降も実験を継続し、高機能バイオ炭のさらなる効果や栽培効率向上に向けた詳細な条件を検証していく方針です。最終的な目標は、従来の農業手法と同等の、あるいはそれ以上の収穫率を実現する再生農業手法を確立し、広範囲への普及を目指すことにあります。
サントリーとTOWING、サステナブルな未来への協業
サントリーグループは、これまでも再生農業の重要性に着目し、カバークロップの導入、有機肥料の使用、不耕起栽培の推進など、サプライヤーや契約農場との連携を通じて持続可能な農業への移行を強力に推進してきました。既に英国での大麦栽培やタイでのサトウキビ栽培でも同様の取り組みを展開しており、今回のTOWINGとの協業は、サントリーグローバルイノベーションセンターを中心に、その取り組みをさらに加速させるものです。特に、有機肥料使用栽培の効率化を通じた再生農業プロセスの確立と、未利用バイオマス資源を活用した新たな資源循環モデルの構築は、サントリーグループの環境戦略の中核を担う可能性を秘めています。なお、サントリーホールディングスは、TOWINGとの戦略的パートナーシップを強化するため、同社への出資も実施しています。
一方のTOWINGは、「サステナブルな次世代農業を起点とする超循環社会を実現する」という壮大なミッションを掲げ、2020年2月に名古屋大学発のスタートアップとして誕生しました。農研機構などの研究機関との連携に加え、独自の技術開発を重ねて生み出された高機能バイオ炭「宙炭」は、農地への炭素固定効果も期待でき、作物品質・収穫量向上だけでなく、土壌改良にも寄与します。2023年にはJクレジット制度「バイオ炭の農地施用」の方法論でプログラム登録を完了し、カーボンクレジットの発行・販売も実現するなど、その技術力と社会貢献へのコミットメントは高く評価されています。
サントリーとTOWING、それぞれの強みを持ち寄ったこの協業は、単なるビジネス連携に留まりません。製造残渣のアップサイクル、化学肥料依存の低減、そして温室効果ガス排出削減という多角的なアプローチを通じて、持続可能な食料生産システムの構築と、カーボンニュートラルおよび循環型社会の実現に向けた大きな一歩となるでしょう。両社の今後の展開から目が離せません。