画期的な研究: iPS細胞由来の巨核球と血小板製剤の可能性
千葉大学の医学研究院に所属する小坂健太朗特任講師と三川信之教授を含む研究グループが、京都大学iPS細胞研究所の江藤浩之教授らと共同で行った研究が、難治性潰瘍の治療に新たな光をもたらす可能性を示しています。この研究で、iPS細胞から誘導した巨核球と血小板の混合製剤(iMPs)が、糖尿病マウスにおいて創傷治癒を促進することが確認されました。さらに、フリーズドライ化が可能であることで、長期間効果を保持できる点も明らかとなりました。
研究の背景
糖尿病や重症下肢虚血、膠原病に起因する難治性潰瘍は、患者数が増加しており、創部感染による下肢切断など深刻な状況を引き起こしています。従来の治療法である多血小板血漿(PRP)は、患者自身の血液から血小板を加工するものですが、その効果や安全性は十分に確立されていません。患者からの採血による負担や合併症リスク、また血小板の成分の個人差が生じるため、安定した治療効果が得られにくいという問題が存在しています。このような背景から、iPS細胞を用いた新しい治療法への期待が高まっています。
研究グループは、以前にiPS細胞から分化させた血液前駆細胞に特定の遺伝子を発現させ、不死化した巨核球を大量に増殖させる手法を確立しました。それにより、膨大な数の血小板が得られるようになり、これを難治性潰瘍の治療に活用することが目指されました。
研究の成果
研究が進む中、iMPsから放出される成長因子の濃度が従来のPRPと比較され、いくつかの重要な成長因子が両者から高濃度で検出される一方、特定の成長因子であるFGF2はiMPsのみに存在することが発見されました。この点が、iMPsがPRPに比べて創傷治癒を促進するキーであると考えられています。
さらに、iMPsは線維芽細胞および血管内皮細胞に対し増殖を促進することが示され、これが創傷治癒における細胞間の相互作用を助ける可能性があることが示唆されました。特に、血管内皮細胞への効果はPRPよりも8.8倍高いという結果もあり、FGF2の関与がこの差を生んでいることが確認されました。
糖尿病マウスへの実験では、iMPsを投与した群がPRP投与群よりも明らかに優れた創傷治癒効果を示しました。これは、iMPsが創部におけるコラーゲン合成や血管形成を効果的に促進したことを示しています。
さらなる展望
この研究では、凍結乾燥処理によってiMPsを長期間保存可能であり、その際も成長因子濃度が増加することがわかりました。これにより、将来的にはiPS細胞由来の巨核球と血小板による新しい治療薬の開発が期待されています。患者自身の血液に頼らない治療法は、QOLの向上と生命予後の改善に寄与することが可能とされています。
結論
iPS細胞技術の進展により、これまで以上に効果的で安全な治療法が求められる中、本研究は難治性潰瘍に対する新たな治療アプローチとして注目されています。今後の臨床応用が待たれる中、研究チームはさらなる研究を続けています。