訪日外国人の院外心停止についての新たな研究
最近、新潟医療福祉大学救急救命学科の大松健太郎准教授、金沢医科大学の牛本知孝講師、稲葉英夫客員教授からなる研究グループが、日本国内における院外心停止の状況についての全国規模の調査結果を発表しました。この研究は、訪日外国人と国内からの来訪者の救命率を比較するもので、2026年3月13日に国際誌『Scientific Reports』に掲載されました。
研究の背景
日本を訪れる外国人旅行者やビジネス渡航者は年々増加し、特に2023年以降は新型コロナウイルスの影響から回復し、以前の水準を大きく上回る傾向にあります。訪日外国人が院外心停止を起こした場合、周囲の人々による救命措置がどのように実施されているのか、国内来訪者とどのように異なるのかは重要なテーマです。しかし、これまで具体的なデータに基づいた比較研究は少なかったため、この問題への関心が高まっていました。
研究グループは、総務省消防庁の全国救急蘇生データと全国救急搬送データを基に、2018年から2023年までの間に日本全土で救急搬送された約57,000件の症例を分析しました。この研究では、心停止患者の居住区分を住民、国内来訪者、訪日外国人の三つに分け、それぞれの特徴やバイスタンダーの行動、そして1か月後の社会復帰率を比較しています。
研究結果
社会復帰率の違い
研究の結果、1か月後の社会復帰率は国内来訪者が14.4%であるのに対し、訪日外国人は8.2%と約6ポイントの差が見られました。特に、目撃者がいる心停止の場合においても、訪日外国人の社会復帰率は14.2%で、国内来訪者の9.1%に比べて有意に低い結果となりました。
バイスタンダーによる心肺蘇生実施率
また、バイスタンダーによる心肺蘇生の実施率も、国内来訪者が58%に対し、訪日外国人は30.8%と著しく低い結果でした。興味深いことに、通行人に目撃される割合は国内来訪者の12.2%に対して訪日外国人が49.7%と著しく高い一方で、家族や知人に目撃されるケースは訪日外国人において少ない傾向が見られました。このことから、言語や文化、さらには状況に関する障壁が訪日外国人の救命措置に影響を与えている可能性が示唆されています。
COVID-19の影響
さらに、COVID-19の流行期においてはどちらのグループでもバイスタンダーによる心肺蘇生実施率が低下しましたが、その低下が訪日外国人の方が顕著であったことが報告されています。このことから、パンデミックが既存の格差を一層広げた可能性があると考えられます。
研究者の見解
大松准教授は「本研究から、院外心停止の救命率には来訪者の属性によって異なる側面が存在することがわかりました。特に、訪日外国人は言語や文化の違い、周囲の人との関係性の弱さが救命処置に影響していることが指摘されます」とコメントしています。これを踏まえ、今後は多言語での救急医療情報の拡充や公共の場での心肺蘇生教育の重要性が求められています。
結論
この研究を通じて、訪日外国人がねらわれる院外心停止の際、多文化共生社会としての対策がいかに必要であるかを再認識させられます。訪日外国人を含むすべての人々が適切な医療を受ける環境の整備が今後の課題だと言えるでしょう。すべての人が安心して生活できる社会を実現するため、救命措置の普及活動が一層重点的に行われることを期待します。