映像と音声のズレを克服する新たな知覚順応メカニズムの発見
千葉大学の一川誠教授とワン・ヤル氏が、視覚と聴覚の刺激に時間差があるとき、それに対する人間の知覚の順応メカニズムを明らかにしました。この研究の成果は、テレコミュニケーション技術の発展に貢献することが期待されています。
研究の背景
日常生活で私たちが体験する映像と音声は通常一致していますが、時には微妙なズレが生じることもあります。特に、テレビやオンライン会議では、映像と音声の間にわずか数百ミリ秒の時間差が生じ、違和感を感じることがあります。これまでの研究では、視覚と聴覚の刺激の開始点がずれている時に、人間の知覚が順応し、時間差を感じにくくする現象が報告されていました。しかし、刺激の終了時にも時間差を設けた場合はどうなるのか、明確な研究は行われていませんでした。
研究の内容
今回の研究では、刺激の開始時または終了時に100ミリ秒以上の時間差を設けて、人間の知覚がどのように変化するかを検討しました。具体的には、まず、刺激を240ミリ秒の時間差で約5分間繰り返し提示し、その後、テスト段階で異なる時間差を設けました。参加者は、それぞれのブロックに分かれ、どちらの刺激が先に感じられたかを報告しました。
実験の結果
結果、視覚刺激と聴覚刺激の開始時または終了時に時間差を設けた場合で、特に聴覚が先行した時にのみ、知覚の順応が生じることが分かりました。この現象は、視覚より聴覚の処理が速いため、聴覚刺激が視覚刺激に先行する条件が特に主観的に認識しやすいことが示唆されています。一方で、逆の条件では順応は確認されず、刺激の時間差に対する知覚の対応関係が重要であることが明らかになりました。
今後の展望
今回の研究成果は、映像と音声のズレを自動的に補正する技術の開発に寄与することが期待されています。特に、遠隔地でのコミュニケーションにおいて、より快適で自然な体験を提供できる可能性があります。
用語解説
- - 時間的再較正: 知覚の順応が生じ、時間差を補償する現象
研究プロジェクト
この研究は、科学研究費助成事業基盤研究(B)「時空間的要約抽出に基づいた適応的知覚処理方略の解明」の支援を受けて行われました。
論文情報
論文タイトル: Effect of stimulus onset and offset asynchrony on audiovisual temporal recalibration
掲載誌: Vision Research
著者: Yaru Wang, Makoto Ichikawa
DOI: 10.1016/j.visres.2025.108595
参考文献
1. Recalibration of audiovisual simultaneity, Nature Neuroscience, DOI: 10.1038/nn1268
2. Recalibration of temporal order perception by exposure to audio-visual asynchrony, Cognitive Brain Research, DOI: 10.1016/j.cogbrainres.2004.07.003