簡便な神経検査ツールDPNチェック®がもたらす新たな可能性
近年、糖尿病患者における網膜症リスクの評価方法が進化しています。岐阜大学の研究チームによって開発された携帯型神経伝導測定器「DPNチェック®」は、その手軽さから診療現場での利用が期待されています。本研究では、DPNチェック®から得られる指標が糖尿病網膜症の重症度を推定する有用な指標であることが明らかになりました。
糖尿病と眼科受診の現状
糖尿病に伴う合併症として最も重要なのが、網膜症、腎症、神経障害です。これらの病態は、早期の発見と適切な治療によって進行を防ぐことが可能ですが、初期段階での自覚症状の少なさが大きな課題です。このため、多くの糖尿病患者が医療機関への定期受診を怠りがちです。
特に、糖尿病網膜症の場合、定期的な眼科受診が重要ですが、散瞳検査への抵抗感から受診率が低い傾向にあります。定期的な検診を受けることなく、知らず知らずのうちに病状が進行するケースが多々あるのが現実です。この問題を解決するために、DPNチェック®の登場が注目されています。
DPNチェック®とは何か?
DPNチェック®は、腓腹神経の伝導速度や活動電位を簡便に測定することができるデバイスです。この検査では、約3分という短時間で結果が得られ、従来の神経伝導検査(NCS)に比べて手軽に実施できる点が大きな特徴です。また、DPNチェック®から算出されたスコア(eMBC)は糖尿病網膜症の重症度と高い相関を示しています。
研究成果の詳細
本研究では、DPNチェック®によって得られる神経障害スコア(eMBC)が糖尿病網膜症の重症度を推定する有力な指標であることが示されました。具体的には、eMBCのカットオフ値を設定し、それに基づいて網膜症の病期を予測することが可能です。例えば、eMBCが1.11以上であれば単純網膜症以上、1.51以上であれば増殖前網膜症といった具合に、病期の判断につながります。
受診促進への期待
研究成果によって、かかりつけ医がDPNチェック®を活用した場合、よりスムーズに患者を眼科受診へと導くことができるでしょう。これにより、糖尿病網膜症による視力障害や失明を未然に防ぐ新たな手段として期待されています。特に、散瞳検査への抵抗感がある患者にとって、DPNチェック®は大きな利点となるでしょう。
今後の展望
今回の研究は単施設での後方視的解析に基づいていますが、今後はより多くの施設での共同研究を通じて、DPNチェック®の有用性をさらなるデータで裏付けていく予定です。これにより、eMBCの経時的な変化や網膜症進行との関連性をさらに詳しく検証し、より良い管理方法を探求していきたいと考えています。
研究背景と重要性
糖尿病網膜症は、視力障害を引き起こす可能性のある非常に重要な合併症です。そのため、早期発見と適切な介入が不可欠です。DPNチェック®を導入することで、患者の受診促進が期待され、結果として糖尿病による重篤な眼の合併症を防ぐ一助となるでしょう。このような新しい技術の進展は、今後の医療現場においても大きな影響を与えると考えられます。
この研究成果は2025年7月16日にFrontiers in Clinical Diabetes and Healthcare誌で発表されました。医療における新たな知見が、未来の糖尿病患者の生活を変えるきっかけとなることが期待されています。