伝統的治水施設「猿尾」の再発見
近年、滋賀県東近江市において、伝統的な治水機構である「猿尾」の再発見が行われました。兵庫教育大学の小倉拓郎准教授を中心とする研究チームは、ドローンを用いた地形測量や、村絵図の解析、住民へのインタビューを通じて、長らく忘れ去られていたこの施設を明らかにしました。
研究の背景
滋賀県愛知川流域に存在すると伝えられている猿尾は、木曽川での伝承にのみ留まっており、地域の現状についてはほとんど知られていませんでした。研究グループは、様々な方法を駆使し、河辺いきものの森を調査することで、少なくとも1基の猿尾の存在を確認しています。
研究方法と成果
1.
地形測量: ドローンによるレーザースキャンを用いて、詳細な地形情報を収集。これにより、村絵図に記された猿尾の位置と、一致することが確認されました。
2.
文献調査: 明治初期の村絵図を用い、過去と現代のデータを比較検討しました。これにより、猿尾が江戸期から明治期にかけての遺構であることが示されました。
3.
インタビュー調査: 地元の70~90代の住民に対し、猿尾に関する記憶を聞き取り、新たな猿尾の1基を再発見することに成功しました。
これらの成果は、地球惑星科学系の国際学術誌『Progress in Earth and Planetary Science』に発表され、調査に参加した研究者たちの報告として広く知られることとなりました。
展望と教育普及活動
この研究の意義は単なる学術的な成果に留まらず、地域住民が河岸の洪水とどのように向き合ってきたのかを見つめ直すことができる点にあります。研究グループは、今後、猿尾を通じた防災教育や地域の環境意識の向上に寄与するため、博物館や学校での普及活動を計画しています。
特に、2025年に予定されている展示やイベントを通じて、地域住民や訪問者が水害や治水の歴史について深く理解できる機会を提供する狙いです。
イベントの発表
- - 滋賀県立琵琶湖博物館では、「川を描く、川をつくる―古地図で昔の堤を探る―」をテーマにした企画展示を2025年7月19日から11月24日まで開催。
- - 東近江市近江商人博物館でも、猿尾に関連する企画展を同年7月26日から開催予定で、地域の知恵や先人の技術にスポットを当てます。
また、VRイベントを通じた新たな体験も提案されており、様々な観点から猿尾の魅力を伝える試みが進行中です。
このような活動を通じて、次世代へと記憶を引き継ぎ、地域の伝統と知恵を守っていくことが期待されています。
最後に
科学の力によって再発見された「猿尾」は、地域の歴史を映し出すだけでなく、未来に向けての教訓を提供してくれる存在です。これからも研究者たちの努力と地域住民の協力により、多くの価値ある知見が生み出されることを願っています。