光通信の革新:波長可変光源の登場
国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の研究チームは、光通信で使用されるC-band(1530 nmから1565 nm)の波長帯において、1光子単位での精密な出力制御が可能な波長可変光源を開発しました。この研究成果は量子通信や量子コンピューターの分野における信頼性向上に大きく寄与することが期待されています。
光子の重要性
光子は光の基本単位で、量子情報技術において重要な役割を担っています。量子通信では、光子の特性を利用してセキュアな通信が行われます。しかし、光通信における波長帯の微弱な光を正確に測定するためには、高精度の光源が必要です。これまで光子数を精密に測定できる信頼性の高い基準となる光源は整っておらず、光子検出器の性能が適切に評価されていなかったのが現状です。
研究チームは、国家標準にトレーサブルな波長可変光源である「標準量子光源」を開発。これにより、C-band全域にわたる光子検出器の高精度な性能評価が可能となりました。
研究の背景
量子技術の進展は、私たちの生活を一変させる可能性を秘めています。量子暗号通信は、光子の特性を生かして盗聴が理論的に不可能な安全性を実現し、光量子コンピューターは高速計算を可能にします。しかし、これらが実用化されるためには、光子の正確な測定が不可欠です。
C-band波長帯内での検出器性能評価は難易度が高く、これまで限られた波長しか評価できていませんでした。さまざまな技術の実現には、C-band全域の評価能力が欠かせません。
開発の経緯
産総研は、過去に光子検出技術を開発し、これを基に新たな研究を進めてきました。今回は光量子コンピューター向けの光子数測定技術の開発を加速するため、精密な出力光子数を管理できる新たな光源評価技術に取り組みました。
このプロジェクトは数つの国の助成を受けており、具体的には科学技術振興機構のムーンショット型研究開発事業や内閣府のイノベーションプログラムなどに基づいています。
研究の内容
光子数の精密測定
量子通信や光量子コンピューターには、光子の数を正確に測定する必要があります。光子が何個届いているか、つまり「検出効率」を把握することで、これらの技術の安全性と正確性が保たれます。従来の方法では、計測の基準となる「正確な数の光子を生成する」ことが困難でした。そのため、検出器の性能はあいまいになってしまいます。
光子のものさしの開発
今回、開発した標準量子光源は、国家標準に基づいた光子数を明確に定義できる光源です。この光源はC-band全域に対応しており、連続波レーザーを使用して高精度の波長調整が可能です。光を音響光学変調器(AOM)でパルス光に変えることで、瞬時に反応する光のパルスを作成します。この光源を用いて、光子のエネルギー量を正確に測定できるため、光通信の精度も向上します。
検出器評価の精度
産総研が開発した光子検出器の性能を評価した結果、C-band以上を網羅する波長帯で、検出効率の評価ができることが実証されました。検出効率の評価結果は精度が非常に高く、従来的な評価方法と比較しても高い水準に達しています。
今後の展望
この研究成果により、量子通信や光量子コンピューターの発展に向けた基盤が整いました。特に、C-band全域にわたる光子数の正確な測定は非常に重要で、高速信号処理や量子計算の拡張に欠かせません。この技術は、今後の量子社会において重要な役割を果たすことが期待されており、実践的な開発に加速していきます。
2025年7月25日発表されたこの研究は、『Optics and Laser Technology』に掲載され、量子通信分野の発展に寄与する重要な一歩となりました。