地震と環境変化
2025-08-04 14:15:31

北海道胆振東部地震による表層崩壊が環境にもたらした影響とは

北海道胆振東部地震と表層崩壊



2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震は、最大震度7を観測し、大規模な表層崩壊を引き起こしました。この地震により、北海道の厚真町と安平町の山地流域で6,000以上の崩壊が見られました。これらの崩壊は、ただ地形を変えるだけでなく、環境にも深刻な影響を与えることが明らかになっています。特に河川の水質や微生物コミュニティーに与える影響についての調査が行われ、重要な知見が得られました。

表層崩壊の影響



国立研究開発法人産業技術総合研究所の研究チームは、表層崩壊の影響を詳しく研究し、崩壊の規模が河川水質や微生物生態系にどのように作用するのかを明らかにしました。調査によると、崩壊堆積物が存在することで、周囲の水質が変化し、微生物の種類も大きく影響を受けることが確認されました。

水質の変化



調査結果によれば、河川水の溶存イオン濃度は、崩壊が起こった土地の面積率と相関がありました。この結果は、表層崩壊によって引き出された土砂が河川水質に直接的な影響を及ぼすことを意味しています。具体的には、崩壊によって生じた堆積物が河川を流れる湧水に対し、低酸素環境をもたらし、特定のイオンの濃度を変化させるといった結果が得られました。

微生物コミュニティーの変化



加えて、環境DNA解析をもとに、河川水中の微生物コミュニティーの違いも明らかにされました。表層崩壊の影響を受けた水域では、嫌気的環境に適応した微生物が多く存在し、これが水質に影響を及ぼしていることが確認されました。これは、表層崩壊により作り出された特異な環境条件が微生物生態系に対して重要な役割を果たすことを示唆しています。

水資源管理と生態系保全の重要性



今回の研究は、表層崩壊が水資源の質的安全性だけでなく、微生物生態系にも影響を与えることを明らかにしました。これまで多くの研究が表層崩壊の発生メカニズムや地形的影響に焦点を当ててきた一方で、環境に与える“見えにくい”影響についての研究はほとんど行われてこなかったのが実情です。

このように、表層崩壊がもたらす環境変化を十分に理解することは、将来的な水資源管理や生態系保全のためにも欠かせないものとなります。

今後の研究の展望



今後は、表層崩壊によって形成される微生物活動のメカニズムや、河川水質の変化に関与する他のプロセスについても探求していく予定です。これにより、災害リスクが高い地域における水資源の管理や生態系を守るための基盤が強化されることが期待されます。

本研究の成果は、2025年に「Journal of Hydrology」に掲載され、多くの研究者や政策立案者が参考にできる資料となる予定です。これにより、表層崩壊が及ぼす環境への影響に対する理解が深まることが期待されています。さらに、本研究は、日本国内の山間部における水資源管理や生態系保全に有用な情報を提供するための重要なステップといえるでしょう。

参考文献


本研究は、独立行政法人日本学術振興会による支援を受けており、関連する文献は以下の通りです。

  • - Göransson, G., et al. (2018). "Contaminated landslide runout deposits in rivers – Method for estimating long-term ecological risks." Sci. Total Environ. 642, 553–566. DOI: 10.1016/j.scitotenv.2018.06.078
  • - Yoshihara, N., et al. (2022). "Catchment-scale impacts of shallow landslides on stream water chemistry." Sci. Total Environ. 825, 153970. DOI: 10.1016/j.scitotenv.2022.153970


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