福島智のエッセイ集『渡辺荘の宇宙人』が電子化
全盲ろう者として初の東京大学教授、福島智氏のエッセイ集『渡辺荘の宇宙人 - 指点字で交信する日々 -』が電子書籍として新たにリリースされることとなった。著者の柔らかなユーモアと豊かな知識、そして、そのバックグラウンドは多くの人々に感動を与えている。
福島氏は1962年に兵庫県神戸市で生まれ、3歳の頃に右目を失い、9歳で左目を失い全盲となった。その後、14歳で聴力も失い、全盲ろうという状況に直面した。しかし、彼はこの逆境を乗り越え、多くの人に希望と勇気を与える存在となっている。著者の言葉には「本当に献身するものを宇宙は助ける」というメッセージがあるが、これはまさに彼自身を象徴するものである。
彼のエッセイ集には、様々な試練や成長の様子が描かれている。それは、著者が母親の支えにより考案された「指点字」というコミュニケーション手段を通して、どのように学業を再開し、人との交流を深めたのかを物語っている。福島氏の存在は、全盲ろう者の可能性を引き出し、多くの人々に光を与えている。
特に印象的なのは、彼の著書を読んだ黒柳徹子さんの感想で、「彼の豊かな感性とユーモアに触れ、指点字の世界がそのままに描かれている」と述べている点だ。多才な著者のエッセイを通し、未来を担う若者たちにも希望を与えようとする福島氏の姿勢が胸を打つ。
福島氏の大学進学の道のりは、1983年に東京都立大学に入学することで始まった。彼は盲ろう者として日本で初めて大学に進学し、その影響で多くのメディアに取り上げられている。彼の学業への情熱と、広範な興味は、ただの使命感から生まれたものではないだろう。一つの知識を得ることは、その探求心をさらに深めることに繋がる。
著者のエッセイは、国立民族学博物館の教授からの講演依頼がきっかけというエピソードも紹介されている。彼は「指点字における〝自然発生的出会い頭(がしら)コミュニケーション〟」について講演し、そこでの出会いから彼の環境がどのように広がっていったのかも描かれている。特に、彼が大好きな作家小松左京との交流が生まれ、彼の作品に対して特別な感想を伝えたことは、福島氏にとっても大きな出来事であったようだ。
本書は、東京都立大学卒業以降の彼の歩みと成長を様々な視点から切り取り、多くの人々の共感を呼ぶ内容となっている。また、電子書籍化にあたり、新たに加筆が施され、著者からの「まえがき」も追加された。この加筆は、読者にさらなる読みがいを提供することでしょう。
加えて、作者は盲ろう者への思いも込め、この本を電子書籍版購入者に無償で点字翻訳用のテキストデータを配布するという配慮を行っている。すべての人がこの書に触れられることを望むアクセスの拡充は、今後も福島氏が実現していきたい目標である。
福島智氏は、これまで数々の著書を世に送り出し、障害学の分野での功績を積み重ねてきた。そして、彼が伝えたいメッセージは、逆境に苦しむ人々にも、希望の光を提供し、共にいきることの喜びを感じてほしいというものに他ならない。彼の物語は、読者に多くのことを教え、同時に励ましてくれるだろう。