武蔵野大学と市萬が挑む脱炭素社会への一歩
武蔵野大学(江東区)と株式会社市萬(世田谷区)は、持続可能な社会を実現するための共同研究を発表しました。テーマは「賃貸不動産の原状回復における脱炭素化の研究」です。この研究では、賃貸物件の入退去時に多く発生する壁紙の張り替えがもたらすCO₂排出量を数値化し、環境負荷を削減する手法を検証しました。特に、賃貸住宅の新しい居住者が入るたびに行われるこれらの更新作業が、どのようにして環境に影響を及ぼしているかを明らかにすることが目指されています。
研究の必要性と背景
2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、日本国内では2030年までに家庭部門でのCO₂排出量を66%削減することが求められています。特に注意すべきは、築20年以上の古い住宅が全体の40%を占め、このような物件にも環境対策が急務です。しかし、最近の新築住宅では最新の省エネ設備が取り入れられている一方で、古い物件では環境対策が後手に回る現状があります。
本研究はこの課題に応えるため、賃貸物件における壁紙張り替えのCO₂排出量を測定し、その削減方法と効果を検証しています。特にビニールクロスの張り替えは、賃貸住宅において頻繁に行われるため、大きな環境負荷をもたらします。
研究の詳細
研究は、1993年に建築されたRC造の5階建て3DK物件を対象に行われました。この物件では、入居期間が2020年11月から2024年10月まで続いています。研究方法としては、Building Information Modeling(BIM)に基づいた壁紙量の推計や環境評価ツールを用いたシミュレーションが行われました。このツールは、壁紙の全面張り替えと部分張り替えを比較し、CO₂排出量の差を評価するもので、具体的には、全体の18.4kg-CO₂の削減が確認されました。
環境評価ツールの開発
株式会社市萬との連携により、本評価ツールが開発されました。このツールを利用することで、2024年12月から2025年1月にかけて実際の工事現場を調査し、張り替えの環境影響を評価することが可能となります。また、将来的には壁紙以外の更新資材についても評価ツールを拡張し、賃貸住宅全体の環境負荷を軽減する計画が進められています。
共同研究者の紹介
共同研究には、武蔵野大学の工学部サステナビリティ学科准教授、磯部孝行氏が関与しています。彼は多くの研究者と共に、建物の環境負荷を最小化するための評価システムの構築に取り組んでいます。磯部氏は、建材のリサイクルや建物のライフサイクルに関する研究を重視しており、その取り組みが本研究の成功に寄与しています。
未来への展望
この共同研究は、単なる環境問題への対処だけではなく、将来的には賃貸不動産業界全体の持続可能なビジネスモデル構築にもつながる可能性を秘めています。さらに、これらの取り組みは、SDGsの目標達成にも貢献しており、地域社会の健全性や持続可能性向上に寄与することが期待されています。今後もこのような研究が進むことで、真に持続可能な未来が実現されることを期待しています。