炎症が筋力を低下させるメカニズムの解明
神戸学院大学と大阪工業大学の研究者たちが、炎症によって筋力が低下する仕組みの一部を明らかにしました。この成果は、Journal of Bioscience and Bioengineeringに掲載されました。研究チームには、神戸学院大学の栄養学部の田村行識講師や、大学院薬学研究科の水谷健一特命教授、大阪工業大学の工学部の中村友浩教授が参加しています。
3D培養筋の重要性
本研究では、従来の平面培養とは異なり、生体に近い「三次元培養筋モデル」を活用しています。これは、コラーゲンの中に筋細胞を立体的に培養し、人工腱で両端を固定して筋組織を形成したものです。このモデルは電気刺激を受けることで収縮し、実際の筋肉の構造と機能を再現することが可能です。顕微鏡下での観察や力の測定も容易に行えます。
研究から得られた主要な発見
今回の研究で、炎症性物質であるTNF-αを三次元培養筋に作用させた結果、いくつかの重要な変化が確認されました。
- - 筋肉の収縮力低下: 時間経過と共に筋力が大きく低下し、72時間後には約90%の低下が見られました。
- - 筋線維の変化: 特に速く収縮するタイプの筋線維が細くなり、その数も減少しました。
- - 収縮を支える微細構造の乱れ: 筋肉の収縮を支えるサルコメアと呼ばれる筋構造が乱れたことが観察されました。
- - 筋肉の硬さの低下: 筋肉の剛性が低下することも明らかになりました。
- - 遺伝子の発現低下: 筋肉の内部構造を保つ因子や、収縮に関わるカルシウム調節に関与する遺伝子の発現が低下しました。
特に、筋肉の硬さの低下は、コラーゲン関連遺伝子の発現低下と関連し、これが筋力低下の一因である可能性が示唆されています。これにより炎症が筋肉を弱めるメカニズムは単なる「やせ細り」ではなく、筋肉の力を生み出す仕組み全体に影響を与えることがわかりました。
研究の意義
慢性的な炎症は、加齢によるサルコペニアやがんによる筋肉減少(がん悪液質)に関して知られており、その詳細なメカニズムはこれまで解明されていませんでした。この研究の意義は、以下の二点にあります。
1. 炎症と筋力低下に関する具体的な分子メカニズムを明示したこと。
2. 生体に近い三次元培養筋モデルの有用性が確認されたこと。
この三次元培養筋モデルは動物を用いないため、倫理的な観点からも優れた研究手法です。今後は、筋力低下の原因解明や治療法の開発、創薬評価など、幅広い応用が期待されます。
研究プロジェクトについて
この研究は、兵庫県が支援する「成長産業育成のための研究開発支援事業」に採択されたプロジェクトの一環です。科学界への貢献とともに、今後の研究と治療法への期待が寄せられます。
論文情報
論文タイトル: TNF-α-induced contractile dysfunction in three-dimensional engineered muscle.
掲載誌: Journal of Bioscience and Bioengineering
DOI: 10.1016/j.jbiosc.2025.12.008
神戸学院大学と大阪工業大学の共同研究が解明した筋力低下のメカニズムは、今後の生物学的研究や医療の現場に大きな影響を与えることでしょう。