日本における少子化問題とプレコンセプションケア
日本の少子化問題は深刻で、解決策の模索が続いてます。専門クリニック「torch clinic」の市山卓彦院長が、国際生殖学会で強調したのは、「プレコンセプションケア」がこの課題の切り札になる可能性です。このケアは、妊娠準備やパートナーの健康意識を高めることを目的としたもので、具体的には妊娠にむけた知識を提供することから始まります。
プレコンセプションケアとは
プレコンセプションケアは、妊娠計画の有無にかかわらず、早期に妊娠や出産に関する知識を深める取り組みです。米国のCDCが2006年に提唱し、2012年にはWHOがリスク因子への介入を推奨しています。日本でも、2015年以降はプレコンセプションケアセンターが設立され、国政策としての重要性が増しています。特に、東京都は2024年から「TOKYOプレコンゼミ」を開始し、男女ともに健康を意識した生育環境を整備する動きが加速しています。
栄養状態の現実
しかし、日本では多くの若年女性が栄養状態に問題を抱えています。約20%が「やせ体型」に該当し、この数字はアメリカやフランスと比べて際立って高いのです。この背景には、SNSやファッション業界が助長する痩せ志向があり、栄養教育の不足も影響しています。妊娠適齢期に必要な栄養についての教育があまり行われていないため、将来的にもリスクを抱えることになります。
妊孕性リテラシーの低さ
さらに日本は、妊孕性リテラシーが低く、その原因の一つが不十分な性教育です。中学・高校の教育においては妊孕性をテーマとすることが少なく、知識不足が妊娠のタイミングの遅れにつながっています。2024年の出生数は過去最低の68万6061人に達し、少子化はさらに進行中です。ART(生殖補助技術)によって生まれる子どもが10人に1人を占める現状は、生殖医療の重要性を浮き彫りにしています。
プレコンセプションケア外来の意義
市山院長は、torch clinicで「プレコンセプションケア外来」を設けており、これは妊娠準備だけでなく、カップルが自分たちの将来の家族形成について考える機会を提供しています。この外来で最も重要なのは、カウンセリングを通じて、正しい情報を提供し、行動変容に導くことです。具体的には、健康状態や妊孕性に関する正確な知識を持ってもらうための検査が行われます。
検査の重要性
検査を通じて自分たちの身体を理解し、適切な栄養教育と合わせて行なうことで、妊孕性を高めるための「自己認知」を促進します。この結果、少しの時間でも妊孕性の理解が早まり、適切な行動を取ることが可能になります。
ART施設の役割
プレコンセプションケア外来は単なる妊娠支援の場ではなく、患者が将来を見据えた計画的な家族形成を支えるための基盤となります。ART施設では、男女双方の医学的評価を行うことができ、必要な選択肢を提供することで、家族形成をサポートします。
実績と成功例
torch clinicでは、7000名以上の患者が来院し、39%が自身の身体についての知識を深める目的で受診しました。特に興味深いのは、女性が単独で受診した場合、7割が後日パートナーを同伴して再度受診していることです。このことは、情報提供やカウンセリングの重要性を示しています。また、プレコンセプションケアを経た女性の約3割が不妊治療へと進み、ARTによる平均妊娠率は52.8%を記録しています。
まとめ
プレコンセプションケアは、少子化社会の中での切り札となり得る重要な医療モデルです。このアプローチは、行動変容を促すためのカウンセリングや、ART施設との連携がカギを握ります。これからの医療者に求められるのは、「未来の家族を共に描く」という姿勢です。これが、少子化問題に対する医療界からの貢献となるでしょう。