腸内細菌由来のHYAが1型糖尿病の高血糖改善に寄与する可能性
2025年4月22日、和歌山県立医科大学と北海道大学、Noster株式会社が共同で行った研究で、腸内細菌が生み出す代謝物HYA(10-hydroxy-cis-12-octadecenoic acid)が、1型糖尿病モデルラットにおいて食後高血糖を改善する可能性があることが明らかになりました。この研究成果は、科学雑誌『Acta Diabetologica』に掲載され、腸内細菌の重要性が再確認されました。
研究背景
炭水化物を含む食品が消化されると、糖が生成され、この糖は腸の粘膜から吸収されて血流に入ります。すると、血中の糖濃度が上昇し、膵臓からインスリンが分泌されます。しかし、1型糖尿病患者では、このインスリンが適切に分泌されないため、食後高血糖の管理が課題となっています。通常、1型糖尿病患者は食直前にインスリンを注射する治療法を取りますが、長期的な健康維持には限界があります。
リノール酸はこの血糖値の制御において重要な役割を果たす長鎖脂肪酸ですが、体内で炎症を引き起こす物質に変わることが懸念されています。しかし、腸内細菌がリノール酸から生成するHYAは、炎症を引き起こさずに良好な血糖コントロールをサポートできる可能性があります。
研究成果
この研究では、HYAを経口的に投与した後に実施した経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)で以下の効果が確認されました。
1.
血糖値の上昇抑制: HYAは正常ラット及び1型糖尿病モデルラットにおいて食後の血糖値上昇を緩和しました。
2.
腸管ホルモンの分泌促進: HYAの投与でGLP-1およびCCKの分泌が促進され、胃の排出速度が遅れることで血糖値の急上昇が抑えられました。
3.
糖吸収の抑制: HYAは腸粘膜のSGLT1による糖の吸収を阻害する可能性が示唆されました。
4.
インスリンとの併用効果: 1型糖尿病モデルラットにおいて、食直前にインスリン注射とHYAの経口投与を併用することで、食後の血糖コントロールが改善しました。
今後の展望
本研究の結果は、腸内細菌由来の代謝物の重要性を示すものであり、新たな治療法の可能性を考えるきっかけとなるでしょう。従来の治療法がインスリン分泌の促進に偏りがちですが、HYAの性質を活用すれば、さまざまなアプローチから1型糖尿病管理が可能になるかもしれません。特に、インスリン療法を行っている患者において、HYAは新たな食後高血糖改善策として注目されるでしょう。
論文情報
この研究成果は『Acta Diabetologica』の電子版において2025年2月3日に発表され、詳細は次のリンクで確認できます。
HYA ameliorated postprandial hyperglycemia in type 1 diabetes model rats with bolus insulin treatment
用語解説
- - 糖: 炭水化物が消化されて生成される物質。血糖値を構成します。
- - インスリン: 血糖値上昇時に膵臓から分泌されるホルモン。
- - GLP-1: 腸管ホルモンで、インスリン分泌を促進し胃の動きを調整します。
- - HYA: リノール酸から腸内細菌によって生成される脂肪酸で、糖代謝に寄与します。
- - CCK: 消化管で分泌されるホルモンで、胃の動きに影響します。