光害とオウトウショウジョウバエ
2025-08-27 10:35:27

光害がオウトウショウジョウバエに与える影響と進化的適応の研究

はじめに


近年、都市化の進展と共に夜間をにも明るい照明が溢れ、私たちの生活は一変しました。しかし、その影響は私たち人間だけでなく、動植物にまで及んでいると考えられています。特に、昆虫の中でもオウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)は、都市部と非都市部でどのように異なる環境に適応しているのかが注目されています。

研究の背景


千葉大学の竹中夏海氏と高橋佑磨准教授の研究チームは、オウトウショウジョウバエを使った実験により、都市部の夜間人工光、いわゆる光害が、昆虫の体内時計や寿命にどのような影響を与えるのかを明らかにしました。都市部と非都市部では、成長や生理機能が異なるため、単純に比較するだけでは影響を評価しきれません。このため、共通圃場実験という手法を用いて、ある特定の環境下で生物の反応を観察しました。

研究方法


本研究では、複数のオウトウショウジョウバエの系統を用い、都市部および非都市部の光環境を模して、明るい夜の環境(明夜条件)と完全な暗闇の環境(暗夜条件)で飼育しました。この実験によって、各個体の体のサイズ、寿命、睡眠時間、概日リズム、さらには遺伝子発現パターンまでを詳細に観察しました。

研究結果


明るい夜間環境において、非都市系統の生存率は著しく低下し、その結果として体のサイズが縮小し、睡眠のサイクルが乱れる傾向が見られました。一方で、都市系統のオウトウショウジョウバエは、明夜条件下においても生存率が高く、特にメスにおいてその特徴が顕著でした。この結果から、都市の個体が光害に対抗するための遺伝子的な適応を進めていることが示唆されます。

遺伝子の影響


さらに、研究は遺伝子発現解析を通じて、光受容や体内時計に関連する遺伝子群が異なる応答を示すことを発見しました。このことは、都市で暮らす個体が光害による影響を抑えるための遺伝子制御を獲得している可能性を示しています。これにより、光害が生物の成長や生存に与える影響を実証すると同時に、生物の急速な進化も促進していることを示す貴重なデータとなりました。

今後の展望


今後、都市化が進む中で、光害の影響を受ける生物の種類は多様化し続けると考えられます。そのため、より多くの生物種を用いて夜間光に対する応答を比較することが重要です。これにより、都市設計や照明デザインにおいて生物への影響を最小限に抑える方策が提案できるでしょう。持続可能な都市環境の構築に向けて、この研究成果は大きな意義を持つといえます。

用語解説


  • - 共通圃場実験: 異なる環境から集めた個体を同じ環境で育てて特性を比較する手法。
  • - 概日リズム: 生物が持つほぼ24時間ごとのリズムです。

研究プロジェクトの支援


この研究は複数の助成金によって支援を受けています。具体的には、環境研究総合推進費などによって実施されました。

論文情報


  • - タイトル: Adaptation to nighttime light via gene expression regulation in Drosophila suzukii
  • - 著者: Natsumi Takenaka and Yuma Takahashi
  • - 掲載雑誌: Ecology and Evolution
  • - DOI: 10.1002/ece3.71971


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会社情報

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国立大学法人千葉大学
住所
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33 
電話番号
043-251-1111

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