第36回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作『ゾウに乗る』
2026年度の第36回Bunkamuraドゥマゴ文学賞が発表され、選考委員を務めた荒俣宏氏により、木下直之氏の作品『ゾウに乗る』が受賞作として選ばれました。この賞は1990年に創設されて以来、毎年異なる選考委員によって新しい才能が発掘されてきました。
受賞作品について
受賞作『ゾウに乗る』は、日本人にとってのゾウとは何かを問う作品です。戦後日本におけるゾウの存在感を、多角的な視点から考察しています。特に、デパートの屋上で生活したアジアゾウ「たかちゃん」という個体を取り上げ、「乗る」「洗う」「曳く」「食べる」といった9つのテーマを通じて、ゾウの役割や象徴性が描かれています。
木下直之氏のプロフィール
木下直之氏は1954年生まれで、東京藝術大学大学院を中退後、兵庫県立近代美術館の学芸員などを経て、現在は東京大学名誉教授として活動しています。彼の著作には『美術という見世物』や『わたしの城下町』など多岐にわたるテーマがあり、文化や美術に対する独特の視点が評価されています。特に、最近の研究では、あまり注目されない美術の側面を掘り下げ、私たちの文化資源としての意味を再評価する試みがなされています。
選考委員の視点
荒俣宏氏は自らの選評において、選考委員としての重責を痛感したことを述べています。彼が木下氏を選んだ理由は、普通は価値がないとされがちな美術的要素に魅了されたからです。木下氏は、流行の美術や建物が崩壊させられ、過去の価値のあるものが失われていく現代社会に対して、歴史的な視点から異なる価値を見出そうとしている研究者です。
象と文化
『ゾウに乗る』では、ただ日本人の心に寄り添うだけでなく、ゾウの肉を食す日本人の記憶や文化的な背景にも触れています。荒俣氏が注目したのは、日本文化のなかでゾウが如何に扱われてきたかという点です。戦後すぐに日本のデパートで暮らしていた「たかちゃん」を通じて、文化的な接点や失われた歴史を探る試みは、ただの動物の話ではなく、人間の歴史とも深く結びついています。
今後の展望
次回の第37回Bunkamuraドゥマゴ文学賞の選考委員は作家の小野正嗣氏が務めることが決まっています。新たな才能がどのように評価され、どんな作品が受賞するのか、今から楽しみでなりません。
この受賞作『ゾウに乗る』は、単なる文学作品ではなく、日本の文化や歴史を再考させる重要な視点を提供してくれる一冊です。ぜひ、手に取ってその深さを感じてみてください。