がん治療に希望をもたらす新発見
最近、熊本大学と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の研究グループが、がんに関与する酵素MTH1の詳細な構造を解明しました。この研究は、X線と中性子を組み合わせるという先進的な手法により行われました。特に、MTH1の酵素反応過程を時系列で観察することに成功した点が重要です。
MTH1とは何か?
MTH1(Nudix hydrolase MTH1)は、細胞内でのヌクレオチドの代謝に関与し、がん細胞にとって生存に不可欠な酵素とされています。具体的には、MTH1は損傷を受けたヌクレオチド、例えば8-oxo-dGTPや2-oxo-dATPを分解し、正常なDNA合成を促進する役割があります。この酵素が正常に機能しないと、細胞はDNA損傷を修復できず、がん細胞の増殖を助けることになります。
研究の背景
本研究は、中村照也准教授や博士課程の学生を中心とする研究チームが取り組みました。従来の研究手法では、MTH1の酵素反応機構について多くの議論がありましたが、正確な解明には至っていませんでした。然而、今回の研究では、X線と中性子を用いる新たなアプローチにより、MTH1とその基質や阻害剤の結合過程を詳細に観察し、これまで分かっていなかったメカニズムを明らかにしました。
MTH1の構造と反応機構の解明
研究の結果、プロトン(水素原子)がMTH1とその基質や阻害剤との結合において重要な役割を果たすことが実証されました。これにより、従来の方法で把握できなかった反応機構が明確になったのです。この成果は、既存の阻害剤を改良したり、新たな阻害剤の設計を行うための基礎となります。
抗がん剤の新たな可能性
MTH1はがん治療における新しいターゲットとされており、本研究の結果は、MTH1に基づく抗がん剤の開発へとつながることが期待されています。国立研究開発法人日本医療研究開発機構や様々な研究支援機関からのサポートを受けてこの研究が進められたことも、抗がん剤開発における重要なステップとなることでしょう。
基盤技術の重要性
本研究には、J-PARCやミュンヘン工科大学の原子炉など、最先端の研究施設が関与しました。特に中性子回折実験は、がん細胞との関係を解析する上で欠かせない技術です。このような基盤技術の発展が、今後もそれぞれの研究分野でのブレークスルーをもたらすでしょう。
まとめ
この研究は、がんに対する理解を深め、より効果的な治療法を提供する可能性を秘めています。世界中の研究者が注目する中、MTH1の構造解明が新たな抗がん治療へとつながることを期待しています。
詳細な研究成果は、令和7年7月14日に米国の科学誌に発表予定です。今後の進展に目が離せません。