新しいマイクロカプセル技術の誕生
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)に所属する健康医工学研究部門の平野研主任研究員と同志社大学の吉川研一客員教授、塩井章久教授、そして庄野真由研究員のチームが、新たなマイクロカプセル技術を発表しました。この技術は、生体に安全な材料のみを用い、従来の技術で難しかった20マイクロメートル以下のサイズの微小液滴を油や界面活性剤なしで作ることが可能です。
進化した製造プロセス
従来のマイクロカプセル技術では、油や界面活性剤が使用され、その残留物が環境や体に与えるリスクが問題視されていました。しかし、今回の技術では特別な装置や複雑な操作を必要とせず、シリコーンゴム製のマイクロ流路の脱水性質を活用することで、ただ置いておくだけで自動的にマイクロカプセルが形成されます。この革新の一因となっているのは、シリコーンゴム(PDMS)が持つ独自の脱水作用です。
使用可能な機能性成分の多様性
このマイクロカプセルは、細胞や核酸、抗体、ナノ粒子など多種多様な機能性成分を内部に閉じ込めることができます。医薬品、再生医療、食品、化粧品など、さまざまな分野でこの技術の応用が期待されています。実際の研究では、大腸菌を含めたナノ粒子や核酸を内包する高い効率が確認され、今後の製品開発において大きな期待を寄せています。
今後の展望
この技術の開発は、持続可能性や生体適合性に対する高いニーズに応えるものであり、製品への転用が期待されています。特に、医薬品や化粧品のように安全性が重視される分野での成果が注目を集めています。水溶性の材料だけを用いて製造されるため、環境への負荷を軽減しつつ有効成分を高効率で封入できる点がポイントです。
研究の背景
今回の成果は、研究チームがマイクロ流体デバイスを活用し、水の相分離の原理を利用することで実現しました。本研究では、ポリエチレングリコール(PEG)とデキストラン(DEX)の2種類の水溶液を低濃度で混合します。この混合水溶液をマイクロ流路に導入することで、微細なサイズのマイクロカプセルが生成されます。流路の構造によっては、生成されるカプセルのサイズを5から20マイクロメートルの範囲で精密に調整可能です。
研究の意義と影響
この研究は、医薬品や食品、化粧品などの製造プロセスを根本的に変える可能性を秘めています。特に、安全な製品の需要が高まっている近年、環境と健康を考慮した製造方法が求められています。本技術は、マイクロカプセルの形成をシンプルにし、より広範な産業へと展開する基盤を提供します。
今後の取り組み
今後は、さらなるマイクロカプセルのサイズ縮小や、多様な有効成分の精密封入技術の向上を目指します。また、異なる高分子材料の組み合わせにも対応できる拡張性を活かし、様々な機能性を持つマイクロカプセルの開発にも取り組む予定です。このように、技術の進展と実用化を推進し、産業界のニーズにこたえられるよう努めていきます。
論文情報
- - 掲載誌:Small Methods
- - 論文タイトル:A Facile Platform for One-Step Generation of Uniform Microdroplets through Dehydration-Driven Phase Separation in Microfluidics
- - DOI:10.1002/smtd.202500387
本技術の詳細や今後の研究成果については、産総研のプレスリリースもご覧ください。