静謐を感じる絵本『ぼくがここに』の魅力
詩人まど・みちおと画家きたむらさとし、二人のアーティストが手を組むことで生まれた新たな絵本『ぼくがここに』が、2024年11月19日に発売される。今回は、まどの没後10周年を記念した特別なプロジェクトの一環として、原画展や関連イベントも予定されている。
絵本のテーマは「存在」。まどは、「なにかが、そこにいる」「なにかが、そこにある」と、日常の中で当たり前のように存在するものに対する深い思索を投げかける。この絵本では、雑踏の中を歩く「ぼく」の視点から、特に「ここにいる」ということの大切さが語られる。大きな象(ぞう)や小さな豆(まめ)、さらには宇宙規模の存在まで、様々な視点から「存在」を探求する内容だ。
この新作は、まど・みちおの絵本シリーズの一環であり、既に他の著名な絵本作家たちとのコラボレーションも行われてきた。たとえば、柚木沙弥郎による『せんねんまんねん』や、あずみ虫による『よかったなあ』などがある。それぞれ異なる作風でありながら、共通してまどの詩的な世界を描き出している。
編集者の松田素子は、まどが「葉っぱが一枚そこにあるとき、その周りには宇宙がおしよせている」と語った言葉を引用し、自然や存在の深遠さを強調している。この言葉からは、形あるものすべてが、この広大な宇宙の中でどのように存在しているのかについてのヒントが感じられる。
一方で、画家きたむらさとしもまた、このプロジェクトに多くの思いを寄せている。「おおきな謎解きをするように探り、思いを巡らせた」との言葉からは、まどのアイデアをどう表現するかの熱心な模索が窺える。このように、まどときたむらのコラボレーションは、単なる絵本の制作を越え、心に響くシンフォニーを奏でるかのようだ。
さらに、記念イベントとして、茅ヶ崎の長谷川書店ネスパ店にて、12月15日までまど・みちおの原画展が開催中だ。来年2月には青山ブックセンター本店でも原画展やイベントが計画されているため、多くのファンが足を運ぶことが期待される。
まど・みちおときたむらさとしのプロフィール
まど・みちお
詩人として1909年に山口県で生まれたまど・みちおは、1934年に詩を発表し、以来多くの人々に愛され続けてきた。特に、1951年に発表した「ぞうさん」は、日本の子供たちにとってかけがえのない童謡として知られている。1994年には国際アンデルセン賞を受賞するなど、その功績は多岐にわたる。2014年に104歳で永眠するまで、彼は詩作に情熱を注ぎ続けた。
きたむらさとし
1956年に東京都で生まれたきたむらさとしは、少年の頃から絵に情熱を持ち続け、19歳からイラスト業界でキャリアをスタートさせた。1982年にはイギリスで絵本作家デビューを果たし、以来約30年間、国際的な舞台で活動を広げている。彼の作品は多国語で翻訳されており、数々のブックフェアにも参加している。
商品情報
絵本『ぼくがここに』は、詩:まど・みちお、絵:きたむらさとしによるもので、定価2,090円(税込)で2024年11月19日発売。サイズは28x23cm、32ページのハードカバー仕様。ISBNは978465206607。出版社は株式会社理論社だ。詳細は
理論社のウェブサイトに掲載されている。
本書は、まど・みちおの深い思考ときたむらさとしの独自の美的感覚が融合した作品であり、ただの絵本ではなく、心の中に静かな感動をもたらしてくれる一冊になることだろう。