研究の概要
千葉大学大学院医学研究院の平原潔教授および横浜市立大学の金子猛教授、柳生洋行助教らの研究グループは、喘息やアレルギー性疾患の悪化に寄与する病原性Th2細胞について、その誘導メカニズムを解明しました。この研究結果は、脂肪分解経路がアレルギー疾患にどのように関与しているのかを示唆し、今後の新たな治療法の開発に寄与することが期待されています。
研究の背景
私たちの免疫系には、ウイルスや細菌を排除する「1型免疫」と、ダニや花粉などのアレルゲンに反応する「2型免疫」が存在します。この2型免疫を調節するのがTh2細胞ですが、アレルギー疾患の患者においては、特に病原性の高いTh2細胞が増加し、病態の悪化を招くことがあります。しかし、この病原性Th2細胞の誘導メカニズムに関しては、これまで十分に解明されていませんでした。
最近の研究で、免疫細胞が栄養素をどのように利用するかによって細胞の働きが変化する、いわゆる「免疫代謝」の重要性が明らかになっています。本研究では、その免疫代謝が病原性Th2細胞の誘導にどのように寄与しているのかを探求しました。
研究のポイント
研究チームの分析により、以下のことが明らかとなりました。
1.
脂肪酸の蓄積:喘息モデルマウスの炎症部位では、オレイン酸などの特定の脂肪酸が顕著に増加していました。
2.
脂肪滴の蓄積と分解:活性化されたTh2細胞は、炎症組織で増加した脂肪酸を脂肪滴として内部に蓄え、脂肪分解酵素ATGLやミクロリポファジーというオートファジーの機構によってそれを分解・燃焼することで、病原性Th2細胞が誘導されることが確認されました。
3.
ATGLを欠損させたマウスの改善:脂肪分解酵素ATGLが欠損しているマウスでは、病原性Th2細胞の数が減少し、喘息の主要症状である好酸球性気道炎症が改善されました。これは、脂肪分解経路が病原性Th2細胞の誘導に果たす役割を示す重要な結果です。
4.
患者における確認:好酸球性副鼻腔炎の患者においても、同様の脂肪分解経路が確認され、難治性アレルギー疾患との関連が示唆されました。
今後の展望
本研究によって、特定の脂肪酸が病原性Th2細胞の誘導を促進し、炎症を悪化させるメカニズムが解明されました。この知見は、脂肪分解経路をターゲットにした治療法の開発への第一歩となります。特に、脂肪分解酵素ATGLやミクロリポファジーの制御を通じて、喘息や好酸球性副鼻腔炎といった難治性アレルギー疾患の治療法が新たに提供される可能性があります。これにより、従来の治療法では十分に効果が得られなかった患者に対しても、新しい治療の選択肢が開かれることが期待されています。
用語解説
- - 病原性Th2細胞:免疫の指令役となるヘルパーT細胞の一種で、アレルゲンに対して反応し炎症を引き起こします。特に常在性が高く、慢性的な炎症を招くことがあります。
- - オートファジー:細胞内の不要物を分解・再利用する仕組みで、細胞を正常に保つ重要なメカニズムです。
- - ATGL:脂肪滴の中の中性脂肪を分解する酵素で、細胞がエネルギー源として脂肪を利用するために不可欠な役割を果たしています。
論文情報
この研究の詳細は、2025年10月24日に公開される国際科学誌「Science Immunology」に掲載されます。今後の研究が、具体的な治療法の実現に向けて進展することが期待されます。