AIで進化するキッコーマンのしょうゆ戦略
世界中で愛される調味料、「しょうゆ」を製造しているキッコーマン株式会社。日本の伝統的な食文化を踏まえた製品を展開する同社は、国際的な事業にも力を入れています。1950年代以降、北米市場に進出した企業は、その後も欧州やアジアさらには南米やインド市場に目を向け、新しい顧客層の獲得を目指しています。特にインドでは、現地の食文化に根差した新たな市場開拓が急務です。
AIと新市場開拓の関係
キッコーマンがこの挑戦に加速をつけるために選んだ手段が、AI技術の導入です。具体的には、技術パートナーとして株式会社Athena Technologiesを選定し、食材と調味料の相性を分析する共同研究プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトでは、発酵や醸造に関する深い知識を持つキッコーマンと、高度なAI技術を駆使するAthenaが手を組んでいます。
「おいしさとは何か?」この根本的な問いにアプローチするために、彼らはAIを用いて食材と調味料の相性を測定・予測する研究を始めました。これにより、日常的に食されている食材としょうゆの組み合わせを客観的に示し、それによってインドの消費者が新しい製品を受け入れやすくなることを目指しています。
キッコーマンの挑戦
今回のインタビューでは、キッコーマン研究開発本部の今村美穂様と山田侑季様、そしてAthena Technologiesの松田拓巳様と代表取締役の阿部武様にお話を伺いました。今村様は「弊社の主要な事業はしょうゆですが、多角的に豆乳やトマト製品などの食品、さらにはバイオ関連事業も行っています」と語ります。その中でグローバルな食文化における評価指標を整備し、商品の「おいしさ」や「健康」といった価値を測定していくことが求められています。
■ インド市場の難しさ
「インドは文化的に牛肉や豚肉の消費が非常に少なく、今までの北米における成功モデルがそのまま通用しない」と今村様は指摘します。従来のプロモーション手法が使えない中、キッコーマンは新たな方法でしょうゆを浸透させる必要がありました。「インドで広く食べられる食材との黄金の組み合わせを示すことで、ですよね!とお客様を引き込むのが狙いです。」
関係構築のスムーズさ
Athena Technologiesへの依頼は、厳しいコンペの結果の中から選ばれました。その理由の一つとして、柔軟なコミュニケーション能力と提案の新しさが挙げられます。今村様は「他社に比べて、私たちの要望に素早く対応してもらえる印象があり、安心感がありました。」と感じたと述べました。
データ収集の段階から関与したAthenaのサポートに対しても感謝の言葉がありました。山田様は「松田さんは私たちの希望を実現可能な形にして、数多くの新しいアイデアを出してくれました」と話します。特に半年という短い期間で最大限の結果を得られたことには満足感があったようです。
技術的な課題
一方で、松田様は「プロジェクトにはデータの扱い、特にアンケートデータの質が大きな課題でした」と真剣な表情で語りました。「良いモデルは質の高い教師データがあってこそ成り立つものであり、アンケートの設計段階からその重要性を再認識することができました。」。
未来へのビジョン
将来への期待もうかがえました。山田様は「言語化できるものは全てAIで実現できるという松田さんの言葉が印象に残っています。もっとデータを有効に活用していけるのではないかと思います」と感想を述べました。今村様も「プロジェクトを通じて得られた知見をもとに新たな分析手法を実践し、今後の事業に役立たせたい」と意気込みを見せます。
この挑戦的なプロジェクトを通じて、キッコーマンは新たなおいしさの探求を着実に進めていることを、関係者からのインタビューを通じて確認できました。