RNAの新発見がゲノムの保護メカニズムを解明!
千葉大学大学院理学研究院の佐々彰准教授と同大学融合理工学府の吉田昭音氏らは、ヒト細胞を使った最新の研究で、RNAがDNAをどのように守るのかを探る新たなメカニズムを解明しました。この研究は、科学雑誌Frontiers in Geneticsにて2023年10月15日に公開されました。
研究の背景
これまで、DNAの情報は転写されてRNAとなり、その後タンパク質合成へと流れていく過程が生物学の基本とされてきました。しかし、最近ではRNA自体が化学的な“書き換え”を受けることで遺伝子機能が精密に調整されることが判明しています。その中でも、A-to-I編集と呼ばれるRNAの変化が非常に注目されています。これはアデノシンがイノシンに変換される過程を指し、RNAの情報を改訂する重要な修飾です。
従来は、A-to-I編集が具体的にどのような生理機能に寄与するのかは明らかではありませんでした。そこで、研究チームはヒトリンパ芽球細胞株TK6を用いてRNA修飾の全体像を探る「エピトランスクリプトーム解析」を実施しました。
研究の成果
最新のRNA修飾解析技術を駆使して、900を超える遺伝子からA-to-I編集が確認されました。特に、DNAの損傷修復や構造の維持に関連する遺伝子に多くの編集が施されていることが明らかになりました。
具体的には、A-to-I編集を行う酵素「ADAR1」が欠損した細胞では、DNA修復に関わるXPAというタンパク質の設計図が正常にスプライシング(編集)されず、DNA損傷に対する応答に異常が見られることが確認されました。このことは、RNAの“書き換え”がDNA修復において重要な役割を果たしていることを示しており、ゲノムの恒常性の維持に寄与していることがわかりました。
今後の展望
研究チームは今後、A-to-I編集が特定の遺伝子においてどのように機能を制御するのか、さらに細かく解析していく計画です。編集位置ごとの翻訳効率やスプライシングの変化、タンパク質機能への影響を追及し、細胞レベルから個体レベルへの研究へと拡げていきます。これにより、がんや老化に関連するバイオマーカーの開発や、薬剤応答予測、さらには環境リスク評価への応用が期待されています。
結論
この研究成果はRNAの新たな機能を明らかにすると共に、ゲノム維持におけるRNAの役割を再評価するきっかけとなります。生命の基盤であるDNAを守るメカニズムを探求することは、今後の生物学や医療分野において重要な意義を持つことでしょう。