機能性タンパク質の新しい生産方法
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)バイオものづくり研究センターの松尾幸毅主任研究員らは、RNAサイレンシング機構を抑制することで、正常に成長して種子を作ることができる植物体を新たに開発しました。この植物は、機能性タンパク質を大量に生産できる能力を持ち、再生医療や培養肉産業への貢献が期待されています。
機能性タンパク質の必要性
機能性タンパク質は、ワクチン抗原や酵素として幅広く使用されており、主に動物細胞や微生物を用いて生産されていますが、コストや安全性の面で植物を利用した生産が注目されています。しかし、植物のRNAサイレンシング機構が外来遺伝子の発現を抑制するため、生産効率が低下するという課題がありました。
過去には、RNA依存性RNAポリメラーゼ6(RDR6)遺伝子を破壊したrdr6植物体が開発され、機能性タンパク質の生産能力が向上しましたが、この植物は成長が抑制されてしまい、種子を形成しないという問題を抱えていました。
新たなTAS3i植物体の開発
今年、研究チームはRDR6に関連したTAS3というDNA配列に着目し、rdr6植物体にTAS3の逆反復配列を導入することで新たな植物体「TAS3i」を作出しました。このTAS3i植物体は、機能性タンパク質を高効率で生産しながら、野生型植物と同様に正常な成長を遂げ、種子を形成するため、実用化の可能性が広がりました。
具体的には、TAS3配列から生成される二本鎖RNAをrdr6植物体で生成可能にし、「miR390–TAS3–ARF経路」の機能を復活させることで、形態的な問題を解決。これにより、TAS3i植物体は葉の大きさや成長が野生型に近づき、正常な花と種子の形成も確認されています。
大きな期待を寄せる技術
この技術は細胞培養に必要な高価なタンパク質の生産コストを大幅に削減することが期待され、医薬品や研究試薬、診断薬などの分野でも経済的な生産体制の確立に寄与するでしょう。また、植物を用いた高度な機能性タンパク質生産技術の開発は、生物製剤や再生医療の分野において非常に重要な進展といえます。
今後の展望
産総研は、このTAS3i植物体を中心に、さらなる医薬・産業用機能性タンパク質の高効率な生産システムの構築を目指し、研究を進めていく予定です。この業績は、2025年7月18日に「The Plant Journal」に掲載される予定です。
この新技術は、今後の医療や食料生産における新たな可能性を示す重要な一歩となるでしょう。植物を用いた持続可能なタンパク質供給源としての役割が今後の研究によってさらに拡大していくことが期待されます。