高野秀行の受賞作『イラク水滸伝』
2023年9月3日、著名なノンフィクション作家・高野秀行さんの著作『イラク水滸伝』が第34回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞しました。この賞は、選考委員を務める桐野夏生さんから「辺境中の辺境に挑んだ怪物的著作。文句なしに面白い!」と絶賛されたことで、注目を集めています。
異色の内容と評価
この書籍は、イラク南部の巨大湿地帯〈アフワール〉という、現代のカオスとも言える地域の実情や文化に迫る作品です。高野さんはこの土地の特異な環境を探求し、その結果、自らの冒険をもとに勘案した緻密な民族誌的記録をもとにしています。また、本書は2023年7月26日に株式会社文藝春秋から出版され、すでに第28回植村直己冒険賞を受賞するなど高い評価を得ていたため、今回は二冠達成となります。
アフワールは、馬やラクダ、さらには戦車も利用できず、誰もが迷うような水路が入り組んだ地形が特徴です。歴史的にみても、ここは反骨の徒たちが集う場所であり、様々な文化が融合する場所でもあります。
マアダンと文化の探求
この地に住む遊動民、マアダンは水牛と共に生き、地域の独特な生活文化を形成しています。高野さんの作品は、単なる紀行本の域を超え、民族誌的資料としても価値が非常に高いとされています。その中でも、「水牛の乳からのゲーマルのつくり方」や「葦による浮島のつくり方」の詳細は、この分野において世界初の報告となりました。さらに、伝統的なマーシュアラブ布(アザール)に関する緻密な調査結果も、本書の重要な成果の一つです。
受賞に対する著者の思い
受賞が発表された際、高野さんは「自分の著作を文学作品だと思ったことがないため、今回の受賞には驚きました。しかし、私のポリシーは『誰も書かない本を書く』というもので、既成の概念にとらわれない作品を評価されることが非常に嬉しい」とコメントしています。彼のこの言葉からも、高野さんの独特な探求心や意欲が感じられます。
高野秀行さんについて
高野秀行さんは1966年に東京都で生まれ、ノンフィクション作家として広く知られています。彼の作品は「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」というポリシーのもとに創作されており、過去には『幻獣ムベンベを追え』や『謎の独立国家ソマリランド』などがあり、多くの賞を受賞しています。最近の著作には『辺境メシ』や『語学の天才まで1億光年』があり、探求的なテーマは今なお多くの読者を魅了しています。
書誌情報
- - 出版社:株式会社 文藝春秋
- - 書名:『イラク水滸伝』
- - 著者:高野秀行
- - イラスト:山田高司
- - 判型:四六判上製カバー装480ページ
- - 発売日:2023年7月26日
- - 定価:2420円(税込)
- - ISBN:978-4-16-391729-0
興味のある方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。